咳き込むエミリオを後目に、あからさまに話題を変えたジュリアン。確かに本調子では無いが指摘されたセィシェルの機嫌は更に悪くなった。

「そんなの俺が一番っ……いえ…、ではごゆっくり」

 セィシェルはぶっきらぼうに言葉を言い捨てると、スズランの腕を強く掴んで踵を返した。

「えっ?! あ、じゃあ失礼しますね」

 慌てて小さくお辞儀をするとジュリアンはにこやかな笑顔で手を振った。
 そのまま早足でカウンターの奥まで連れてこられたが、セィシェルは無言のまま厨房へと戻っていってしまった。

「セィシェル…」

「何だ? セィシェルのやつ! 感じ悪いったら…ってかスズ!! あの素敵な人は一体誰?!」

 カウンターに戻ってくるなり瞳を輝かせたソニャが待っていた。

「え、えっと。素敵な人?」

「今さっきスズと話してた垂れ目の彼!!」

「ジュリアンさん、かな?」

「まって、名前も素敵! スズってば何処で知り合ったの? 歳はいくつ?」

 どうやらソニャの好みに突き刺さる容姿だったのかジュリアンについてあれこれ質問攻めに合う。

「えっとね、ジュリアンさんは民兵の警備隊の方でこの間色々とお世話になったの」

「警備隊なんだ! 花形職じゃん! ならきっと年上だよね?」

 ソニャは一層瞳を輝かせた。

「あと、ライアとはお友達みたいで…。今度来る時にライアも連れてきてくれるみたい…」

「うそ! 良かったじゃん!!」

「うん……」

「どしたの? なんか元気ないけど、もしかして熱ある? 顔色も良くないじゃあない」

「わかんない。けどちょっとあつい、かも…」

「かもってあんたねぇ」

 ソニャは呆れながらも額に掌を当て、体温を計ってくれた。

「手、冷たくてきもちいい…」

「ほらぁ、すごい熱あるじゃんか! アタシの手が冷たいんじゃあなくて、あんたが熱いんだよ。晩ご飯は食べられそう? 部屋まで運んであげるから先に部屋に戻ってて!」

「……ソニャちゃんいつもごめんね」

「もう! そういうのはいいからちゃんと暖かくしてなよ?」

「うん、ありがとう…」

 一気に捲し立てるソニャに感謝してスズランは自分の部屋まで戻ってきた。途端に気が抜けたのかベッドに身を投げ出す様に倒れ込んだ。

 そのままスズランの意識は深く仄暗い所へと消え入るが如く沈んでいった───。