「っ…!?」

 樹々の葉が擦れ合う音と共に突然目の前に人影が立ちはだかったかと思うと何やら警告を受ける。

「待てそこの曲者! この森を王宮の敷地と知って足を踏み入…ってあれ? 君、スズランちゃん!?」

「きゃあっ?! ……だ、誰?」

「……え、あっれ〜? もう忘れちゃった?? 俺ちょっと落ち込んじゃうな〜」

 唐突に現れて行く手を阻んだのは昨日、商店街でライアと一緒にいた警備隊員のジュリアンと言う男だった。

「? ……あ、えっと、、警備隊の……ジュリアンさん?」

 落ち込んだ風に肩を落としていたジュリアンだが、恐る恐る名前を呼んでみるとニカッと白い歯を見せて表情を和ませた。

「良かった〜! 昨日会ったばかりなのにもう忘れられちゃったのかと思ったぜ! で、スズランちゃんは何故この森に?」

「……あの。この森の警備の方にこれを返しに来ました」

 会うのは二度目だが、快活で表裏のない話し方をするジュリアン。少し垂れた明るい緑の瞳と彼の持つ気さくな雰囲気に警戒心が薄れる。
 スズランは胸に抱えていたマントを少し広げて見せた。

「これってマント?」

「はい…。先日わたしが寒くない様にって貸してくれたんです」