一晩、ずっと考えていた。
しかし思考の糸はどこで縺れたのか解くのが困難な程に絡まってしまった様だ。
セィシェルの口づけの意味……。あの様子からして単なる〝おやすみの挨拶〟ではない事位流石に気がついた。しかしそれが何を意味するのか。
口づけといえばライアの二度の口づけにも他に意味があるのだろうか。スズランはライアの柔らかい唇を思い出し、じわじわと頬が熱くなるのを感じた。
「あ、あんなの! ただわたしをからかっただけだもん……他に意味なんか、ない」
自分に言い聞かせる様に口に出す。
同時にエリィの何処かおかしな様子も気になった。
思い返せばライアやエリィの素性は謎だらけだ。ライアはこの国の民と言ってもおかしくない風貌だが、エリィは容姿からして恐らく他国出身だろう。旅行客や移住民の多いシュサイラスアでは特に珍しいことでは無い。しかしこの二人、特にエリィは酒場のいち客にしては妙に関わりが深く、その割には何も素性を明かしては来なかった。まるで敢えて秘密にしている様な、そんな風に感じた。
「わけわかんないよ、みんな…」
果実酒入のミルクは身体を温めてくれたが眠りへと誘ってはくれない。