その力強い腕に抱きすくめられて、口づけをされて。優しいのかと思えば突然説教をしたり、からかったりとスズランを惑わす。

「……わたし助けてもらって、ここまで送ってもらったのに本当に何も言ってない…! こんなんじゃ嫌われて当たり前だよ…っ、しかも大嫌いだなんて……馬鹿はわたしじゃない…」

 スズランは深くため息を落とした。

「ライアは国王陛下の為にお仕事してるって言ってたけど。普段はどうしてるんだろう…。もううちのお店には来てくれないのかな…?」

 もしも次に会えたならば、必ずライアに感謝の気持ちを伝えよう。伝えたらこちらから笑いかけてみよう。そうしたら、もしかして笑い返してくれるかもしれない。そんな淡い期待と共に、そう心を決めたスズランだった。
 大丈夫。誰にも言わないから───と、スズランは深々と降り積もってゆくライアへの想いをまた、心の奥へと閉じ込めた。
 そこでふと我に帰る。セィシェルはちゃんと戻ってきているのだろうか。時刻はとうに正午を過ぎている。通常ならばそろそろ仕込みに入る時間だ。不安になったスズランは仕事着に着替えると急いで居間へと降りてゆく。そこへ丁度息を切らしながらやってきたセィシェルと鉢合わせた。