溢れてくる涙を枕で抑える様に顔を押し付ける。何故こんなにも涙が出るのか、何故こんなにも悲しいのか全く思考がついてこない。

「どうしてあんなふうに抱きしめるの？　どうしてあんなふうにキスするの？　どうしてわたしに優しくするの？　……どうして、わたしをからかうの？　どう、してあんなに、いじわるなの…？　もう…っ何が何だかわからないよ…！」

　感情が昂り考えがまとまらない。一通り涙を流し、何とか冷静さを取り戻す。そして少しずつ頭の中を整理していく。
　酒場(バル)に来ていた時、ライアは誰にでもよく笑顔を見せていた。周りには何時だって綺麗な女性達がいて……。毎日もやもやしていたのは、近づくなと言われたからではない。ただの焼きもちなのだと今更気づいた。

「わたしにはいつも不機嫌だもん……よほど嫌われてるんだ…」

　そう思うとまた胸が苦しくなる。路地裏に居合わせたのは本当に偶然なのだろう。

「っ…だからいじわるなの？　助けに来てくれて、、すごく嬉しかったのに、わたしったらちゃんとお礼も言えないなんて…。ライア、強くて……すごくカッコよかった」

　日々鍛えているのだろうか、力強い腕、軽い身のこなしは鮮烈にスズランの脳裏に刻まれた。