「っらい、あ……ゃ…ン、ンっ…!」

 胸板を押し返してみたがびくともしない。更に抱きすくめられ何度も角度を変えて口づけされる。そうしているうちに頭の芯がくらくらとして正しい判断が出来なくなってくる。これでは勘違いしてしまいそうだ。大切に……大事に想われているのだと錯覚してしまう。抵抗するのをやめて、甘く蕩ける様な唇に酔いしれてしまいそうになる。
 しかし不意に唇が離れると今度は寂しさに似た感情がスズランを襲い、縋る様にライアを見つめた。

「……どうした? 気持ち良くなったのか? さっきまでの威勢はどこへやら」

 だが、その一言で一気に現実へと引き戻された。ライアにとってこんな事は遊び半分でしかなく、ただの暇潰しに過ぎないのだろう。
 心臓がずきずきと痛んだ。

「……ライアの馬鹿っ!! 大っ嫌い! いつもそうやってからかって……もう、ほんとにわたしに構わないで! さよなら!!」

 スズランはそう早口で言い、逃げる様に酒場(バル)の裏庭へとまわった。一気に階段を駆け上がり扉を開けて自室へ入るなり目の前のベッドへと思い切り身を投げ出す。
 あのままではまたライアの前で泣いてしまいそうだった。

「馬鹿馬鹿! ライアの馬鹿!!」