「あ。お花屋さんの…!」

「スズさんこんばんはっ!! じ、自分。フィオルって言います!」

 フィオルはマスターの行きつけの花屋で働いている好青年だ。よく店内に飾る生花を配達にやってくるので顔馴染みではある。

「こんばんはフィオルさん! お疲れ様です、今日も配達ですか? 今マスターを呼んで…」

「いや、違うくて! 今日は配達じゃあなくて……よ、よかったらこれ。貰ってくれると嬉しいっっ!!」

 勢い良く両腕を突き出したフィオル。その手の先には可愛らしく装飾された小ぶりの花束(ブーケ)が握られていた。

「わあ! かわいいお花!! このお花をわたしに?」

「……この花。とても希少な花なんだけど、この時期にだけごく僅か出回ってて! 可憐な姿がどこか君と似ているっていうか……それで、その…」

「確かに。ふーん、それで? なんて言う名の花なんだ?」

「っ…?!」

「あっ!」

 花がスズランの手に渡る直前、背後から伸びてきた腕によってそれは阻止された。

「っ…セィシェルずるい! そのお花はわたしにって頂いたのに!」

「じゃあ食卓にでも飾ればいいだろ? せっかくの珍しい花なんだ、みんなの見える所にさ」

「そうだけど!」