「うん、小さい頃マスターと一緒に何度か来たことあるけど…」

「全然ってこと?」

「うぅ……だから、今日はお手伝いのついでに街を歩いてみたくてセィシェルに無理言って付いてきたの…! だってせっかく十六歳になったのに、一人で街も歩けないなんて…っ」

 そう答えるとライアは驚きを隠せない様子でこちらを見たかと思えば、今度は呆れた表情で小さく呟いた。

「どんだけ箱入りなんだよ…」

「なによ! わたしだって気にしてるんだからね」

 呆れられても仕方はないが、こうあからさまな態度を取られるとどうしてもむっとしてしまう。
 そうして気まずい状況を乗り越えやっとの事で酒場(バル)へと到着するとスズランは漸く心から安堵した。もうセィシェルは先に着いているだろうか、などと考えていると不意に強く腕を引かれた。そのまま建物の影へと引っ張り込まれる。

「っなに? ……ライア?」

 ライアの顔を見上げるも何を考えているのか全く読めない。いや、やはり何処か苛立った表情をしている。

「お前、俺が今から何するか全然考えつかない訳?」

 探る様な視線に、疑問を浮かべながら首を傾げて見つめ返す。

「……なにか、するの?」