「あ! いらっしゃいませ!!」

 開店とほぼ同時に現れるのは、斜向かいに店を構える八百屋の店主だ。毎夜毎晩、商売仲間とこの酒場(バル)で過ごすのが日課である常連客だ。

「今日も仲間を呼んで沢山注文するから頼むよ〜!」

「わあ! いつもありがとうございます! いっぱいおまけしちゃいますね!」

「いやあ、今日も別嬪さんだなぁスズちゃんは! 最近また一段と綺麗になって来て、これじゃあ街の男達もほっとかないだろう?」

「ええっと、そんな事は…」

「いやいや、あの番犬君さえいなけりゃあオレ達だってなあ…ってこんなトコ見られちゃあ早速噛みつかれちまうよ。わはは!」

 そう笑いながら扉を開けて酒場(バル)への石段を下っていった。そもそも八百屋の店主には器量も気立共も良い素敵な奥方が居る筈なのだが。それでもこうして毎日足を運んでくれるのは有り難い事だ。
 八百屋の店主を見送るや否や次々と客がやって来る。都一の人気店と謳われるのも頷ける。
 今日は通常よりも客足が多く、なかなか途絶えない。その間スズランは笑顔で客人を出迎えた。
 漸く波が途切れた隙に店内に戻ろうと裏庭に回った所、またもや声をかけられ振り返る。

「あのっ…!」