そんな思いとは裏腹に、囀る小鳥たちはいつもに増して愉しげだ。
 スズランはため息を呑み込むと小さく息を吐く。渋々とベッドから下りてぼんやりと身支度を整えた。

「……はあ」

 ライアが酒場(バル)に姿を見せなくなり、もう五回も陽が昇った。
 スズランは日々僅かな期待を込めて開店準備に精を出していた。そして期待を裏切られた後、皆が寝静まった頃を見計らって今度は深夜の森に繰り出す。だが、ここでも敢え無く淡い期待は裏切られるのだ。念の為、昼間にも足を運びその姿を探すが森には人影すら見当たらない。
 ライアにおいては来店して来ない限りは為す術もないが、あの警備員には返す物があるのだ。借りたマントをこの手で返すまでは如何にしても粘るつもりでいた。

 浮かない顔で居間に降りてゆくと、鼻腔を擽る甘い香りと同時に食卓の上にとても大きな南瓜(かぼちゃ)の包み焼きが堂々と置かれているのが目に入った。包み焼きは焼きたてなのか、艶々と輝いていてまだあたたかそうだ。その脇には珍しい苺の果実水の瓶や、スズランの好物料理が所狭しと並べられている。

「……え…。なんで、これ…」

「スズ〜! 十六歳の誕生日おめでとう!!」

「お、おめでとう…! スズ」