スズランは人知れず自室へと戻り床に就くも、やはり眠ることが出来ずそのまま朝を迎えたのだった。
 もやもやと冴えない頭のまま朝支度を始める。朝食代わりにと、警備員から受け取ったお菓子の包みを開けると中身はとても美味しそうな焼き菓子だった。ぱくりと口に含むと優しい味が口内に広がる。

「おいしい…!」

 とても美味しいのだがその味は不思議と慣れ親しんだものと良く似ていた。温めたミルクと合わせて焼き菓子を食べ終えると、スズランは決心した様に声を出した。

「……よぅし。確かめなきゃ!」

 今日、ライアが店に来たら勇気を出して自分から声をかけてみよう。そしてもう一度あの瞳を見て確かめたいのだ。セィシェルに怒られてもこればかりは仕方がないとそう決めた。

 しかしスズランの決心も虚しく、この日ライアは酒場(バル)に姿を現さなかった。
 あれ程毎日の様に通って来ていたのにその次の日もまた次の日も……。その足取りはぱたりと途絶え、エリィは勿論ソニャも不思議がっては残念そうに肩を落とした。そう言えばもうこの酒場(バル)には来ないと言いかけていたがあれは本気だったのだろうか。

 分かってはいたが、森の警備員にも簡単には会えなかった。綺麗に洗濯をし火熨斗(ひのし)で丁寧に皺を伸ばしたマントを返すべく毎日森に足を運んでいるがこちらもその姿を見せる事はなかった───。





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