そしてその細腕からは信じられない程強い力でセィシェルの足をがっしりと掴むと何やら呪文を……いや、必死に何かを呻いている。

「……何か……ごは、ん……を。ごはん……」

「うわぁっ! 分かったよっ! 今なんか持って来てやるから離せ!! おいスズ、この馬鹿力ゾンビ女を席に案内しとけ」

「え、うん!」

 セィシェルはエリィの腕を何とか振り払うと足早にカウンターの奥へ戻って行った。

「えっと、、エリィ、さん? 立てますか?」

「……ありがとう。大丈夫よスズランちゃん」

 おもむろに起き上がるエリィ。濃紺の髪をかき揚げ、僅かに微笑む姿にまたもやドキリと心臓が脈打つ。とりあえずエリィをカウンター席へと案内した。

「今セィシェルがお料理を作ってると思うので取りに行ってきます! もう少しだけ待っててくださ…」

 厨房に戻ろうとしたが突然に手首を捕まれスズランは足を止めた。

「待って。貴女、もしかしてだけど…」

「…?」

 何かを探る様な目付きで、瞬きもせずスズランを見入るエリィ。
 強く捕まれた手首がじわり、と痛む。
 しかし夜空に煌めく星の如く美しい色の瞳に捕らわれ、ただ見つめ返す事しか出来なかった───。