座席に全ての重みを預け、身体を楽にする
「そういえば見つけたのか?」
その言葉だけで理解するのが難しかった
答えられず黙っていると、雲雀は分かりやすく話す
「SQUELETTE(スクレット)に俺達の居場所を教えた奴だ」
ようやく聞かれたことを理解した
その人物はもう特定してある
だが、どうせSQUELETTE(スクレット)を殺るんだ、言う必要はないと思い知らせなかった
それに.......
「その様子だとそいつに興味なかったのか」
『そうだな。調べたことは褒めてやるが、興味は唆られなかったな。でも、掴んではいる。悪魔(オウガ)、本名は大原怜‐オオハラレイ‐SQUELETTE(スクレット)のメンバーの1人』
どうやってあたし達を調べたかというと、ひたすらあたしの周りをついてきたこと
気配に気づいたからずっと撒っていたんだがしつこかったんだよな
殺しは出来る奴ではなく、スパイや情報屋に似た役割だろう
「そこまで調べておいて報告なしか」
『あたしはSQUELETTE(スクレット)を早く殺したいんだ。そんな奴なんてどうでもいい。殺してしまえば一緒だ』
「お前を殺すために、他の組織から腕の立つ奴を奪って自分のものにしてきてる。関係ない奴まで殺るつもりか?」
『あたしは善人じゃない。殺すことに躊躇いはない。あたしに刃を向けた奴は遠慮なく殺す。例え、それがお前であってもな』
あたしは自分以外信用してない
認めた人はいる、だが信用なんてしちゃいない
認めている奴が刃を向けたらあたしは躊躇なく殺す
そこに感情なんてものは生まれない
あたしの言葉を聞き、雲雀は大笑いをしている
落ち着いたのち話し始めた
「お前は最高だ。だから、俺は狼(ロウ)じゃないといけないんだ。でも、俺を殺せるか?」
あたしは嘲笑う
『殺せるよ。思いっきり残酷にな』
誰であろうと殺せる
あたしは危険で楽しいことが大好きだ
ゾクゾクとする
慕って奴が敵になる瞬間
恐怖に怯え我を忘れて向かってくる奴
組織で殺そうとしてきた時
こいつらの表情の変化や感情を剥き出しに向かってくる姿
そんな姿を見るのが好きなんだ
人間という生き物の本性も分かるからな
あたしを楽しませてくれれば、それでいい
「おい、狼(ロウ)ついたぞ。準備しろ」
いつの間にか車に揺られて眠っていたらしい
スッキリしない目覚めに嫌気が差しながら車を降りた
雲雀にサングラスと帽子を借り、顔が分からぬようにし髪を束ねる
そして、帽子の中におさめる
零(ゼロ)が女だという事実がバレるのは避けたい
ウィッグを外せば、女だということを悟られる心配はないが、本当の色を見られるのは嫌だ
独特な色は目立つ、普段から派手な色をしているが明るい色のウィッグは持っていないのでつけたことがない
確実に怪しまれてしまう
ボスである雲雀の部屋に入ると、既に燕(スワロー)がソファーに座っていた
ボスが帰ってきて立ち上がる燕(スワロー)は会った当初とは、雰囲気が変わっている
「燕(スワロー)待たせたな」
「いえ、それにしてもどうして時間をずらすのですか?」
「こいつの用事があるからな」
あたしの方を見て、自分はスタスタと特等席へと歩いていく
ドカッと座るとあたしを見つめる
「零(ゼロ)のためですか?」
「まぁ、ちょっと問題が起こるとまずいんだよ」
「問題?」
あたしの今の現状を知っているのはここに1人しかいない
『思うように体が動かねぇんだ。俺の体が動くうちに終わらせておきたいんだ』
よく理解ができていない様子の燕(スワロー)
知らなくていい
あたしのことを知る者が増えるのは望んでない
「そういうことだ。21時に開始する。20時半にここ(アジト)の駐車場で待ち合わせな」
「分かりました。俺はこれで失礼します」
時計を確認すれば、今はまだ午前8時
準備をするにはまだ早い時間だ
燕(スワロー)が去り、再び二人だけの空間が広がる
「狼(ロウ)」
あたしの名を雲雀が呼ぶ
『何でしょうか、ボス』
雲雀のもとへゆっくりと歩いて近づく
必然的にあたしが雲雀を見下ろす形になる
「俺は一つ、お前に聞きたいことがある。ずっと疑問に思っていたことだ」
『それはなんですか?』
緊迫した空気が漂う
真剣な眼差しで思いつめた瞳(め)
気怠さを覚えながらも、その瞳(め)と向かい合う
「なぜ、俺だった?なぜ、ここに座ろうとしなかった」
あたしは今の場所を離れ、ソファーへと座る
一つの息を大きく吐いた
『そんなことか』
「俺にはそんなことじゃねぇ」
あたしは雲雀に目を合わせることなく淡々と話しを進める
『理由が必要か。あたしがこのままボスの座へと立っては面白くない。お前の能力を覚醒させて使える、そう思っただけだ』
体をソファーに預けているのにも関わらず、気怠さや重さが消えず、眉を顰める
「お前らしいと言えばお前らしいが。本当にそれだけか?」
『しつこい。それだけだ』
どんな答えを求めて聞いていた?
どんな言葉を望んでいた?
未だに意味深な顔をしている雲雀と目が合う
そんなことで頭を使っているなんてくだらない
『あたし、帰る』
ソファーから立ち、部屋を出る
自分の家へと歩いて帰り、真っ黒に自分を染める
まだまだ時間がある
人に混じるのも今のあたしにはキツイだけ
ベットに横になる
明日になれば何もできずに動かない体になるから明日の仕事をやろうか考えたが、雲雀にやらせればいいかと考える
その後、瞼が重いため目を閉じた
オレンジ色の光がチラつくため眩しくて目を開けると、もう夕方になっていた
時計には19:30の数字
ベットから離れ今日の仕事の準備をする
ウィッグ、カラコン、化粧を少しして、その後はピアスやネックレスを身に着けた
そして最後に短刀と銃を確認し、見えないところに体の一部としてつける
これで準備は終わりか
あたしはアジトの駐車場へと向かうと既に燕(スワロー)が車の側にいた
そして、あたしの後ろから雲雀が歩いてくる
「早いじゃないか、まだ10分も余裕あるぞ」
『早いことにこしたことはないです。行きましょう』
雲雀の運転により目的地へと目指す
今回、殺す相手は後藤ーゴトウー組
数はざっと400人前後で、問題沙汰の組らしい
どうやら、燕(スワロー)の復讐相手みたいだ
『燕(スワロー)、復讐が終わったらどうするつもりだ?』
「復讐できるのは零(ゼロ)のおかげだと思っている。俺はここ(MIUNIT‐ミニュイ‐)に尽くすつもりだ」
『普通に戻れなくなるぞ?』
「戻れないところにいる。覚悟はしていたから問題ない」
燕(スワロー)、いや、里見忍の瞳を見るとそれが分かる
復讐をすると決めた時から、それなりの覚悟をしていたのだろう
意志が固まっているのなら助かる
こんなこと聞いたのも、目的が達成した後、仕事にならず組織の情報が洩れるようなことが何度かあったからだ