それに、居心地が良くない。
ここにいると、あの事件が脳裏に反映される。
幽閉されているこの状況が、あの事件とリンクして、記憶を刺激する。
『愛してるよ、幸珀』
――不快な囁きが、聴覚を一時的に支配した。
息を、呑む。
やめろ。
思い出させるな。
「消えろ!!」
両頬を叩いて、無理やり記憶を眠らせた。
なんでこんな時に蘇っちゃうんだろう。
あの事件の犯人である、善兄の声だった。
あー、鳥肌が立つ。ほんとに最悪な気分だ。
今は、あの事件とは違う。私は1人。ここに犯人はいない。縛られてもいない。全然、違う。恐れるな。取り乱すな。
「落ち着け、私」
深呼吸をして、平静を取り戻す。
よし、大丈夫だ。
また思い出してしまう前に、ここから出よう。