文句のつけどころのない、ハイクオリティなまがいもののシナリオを、弘也は何の疑いもなく真実と受け取った。
唄子ちゃんの思惑通りに。
「そ、それって……もしかして、リンチ?」
「ぐすっ……うん、多分。幸珀先輩を連れて行った先輩達は、渡部先輩やひろちゃんに片思いしてるみたいだったよ」
「ふーん」
唄子ちゃんは瞬時に、弘也の反応が薄れたことを察した。
弘也がさっきまでの焦りを失くすのも当たり前だ。さっきまで空き教室で、噂のリンチについて喋っていたのだから。
偶然だろうけど、唄子ちゃんはなぜそうなったのか、これっぽっちも気づいていない。
それもそのはずだ。私がわくわくしていたほど、女子に恋愛絡みでリンチされたがっていたことを知らないのだから。
自分がミスしたと、1ミリも自覚していない唄子ちゃんは、涙を浮かべている表の顔とは裏腹に、
ここで弘也の興味がしぼんだことに、胸の内で悪魔の如くホッと安堵していた。
ひろちゃんにとって、幸珀先輩がそこまで特別な存在ではないと証明できた。そう深く思い込んでいるのだ。
……だからだろうか。
「連れて行かれちゃう前に、幸珀先輩が言ってたの。皆が助けてくれるって信じてるから、大丈夫だよって」
シナリオをより完璧に仕上げようと、ポロッと要らないセリフを付け足してしまったのは。
私が喧嘩慣れしていることを目の当たりした唄子ちゃんにしては、幼稚なミスを重ねた。私自身強いのに、誰かに助けを求めることはしない。
それに、もう1つ。
弘也は、明瞭な違和感を抱いた。