唄子ちゃんの顔を一目見て、げんなりして頭をガシガシかいた。


さっさと視界から消えてほしそうに背を向けた弘也に、唄子ちゃんは喉から声を振り絞った。



「ど、どうしよ、ひろちゃん……っ」



いつもと違う、か細い涙声。


それでも、弘也は煩わしく思うだけだった。唄子ちゃん相手だと、とことん冷酷なのだ。




しかし、



「幸珀先輩が……幸珀先輩が……」


「幸珀がどうかしたの!?」



その一言に本能的に食いついた弘也は、すぐさま唄子ちゃんの方に振り返った。




唄子ちゃんは肩を震わせながら、目に涙を溜める。


内心、不服そうにしながら。



弘也はプレーボーイの経験なのか、女好きの性なのか……実際は単なる直感なのだろうが、なんとなく気づいていた。

唄子ちゃんが嘘泣きしていることに。



けれど、今はそれどころではない。涙のことはひとまず放っておいた。




「うぅ……ご、ごめ、ごめんね……。あたし、幸珀先輩を守ろうとしたんだけど……」


「おいっ、幸珀に何があったんだよ!」


「幸珀先輩が、知らない先輩数人に連れて行かれちゃったの」



唄子ちゃんの演技力は、今にも女優になれちゃうくらい、レベルが高かった。