「幸珀の秘密を共有して、僕の秘密を打ち明けた、あの瞬間を」


「っ……ひ、みつ……?」



善兄が恋した運命的な瞬間かは知らないが、その瞬間なら憶えている。


忘れてしまいたかった。

忘れられるわけがなかった。



記憶が濁流となって、頭の内側をガンガン刺激する。





『秘密を、聞いちゃったんだ』



――あれは、中学2年の春。

桜が儚く散っていく中、公園にあるブランコに乗って、善兄と2人きりで話していた。





あんまり思い出さないようにしてたのに。



蘇った恐怖に、力が抜けて。


善兄の手を引き剥がしたがっていた、自分の手がだらんと下がる。



こうなるから……弱くなっちゃうから、思い返す時間は無意義なんだ。




「思い出した?」



私は頷くことも首を振ることもできず、ただただ硬直していた。


善兄に溺愛され始めたのは、私と善兄が秘密の共有者になった、あの時からだった。



「思い出したんだね。嬉しいよ」