たまたま今休憩していて、たまたま休憩場所に屋上を選んで、たまたま私と遭遇したってことでしょ?



そんなに偶然って重なるもの?胡散臭さがプンプンするよ。


私が屋上にいるのを見かけたか噂で聞いて、ここに来たんじゃないの?



まあ、どっちでもいいけど。

どうせ結果は変わらないし。




一歩、善兄がおもむろに近づいてきた。


反射的に後ずさろうとしたけど、これ以上は下がれなくて、奥歯を食いしばる。



「ねぇ、幸珀。憶えてる?」



全身を力ませながら、給水塔の端っこで善兄と対峙する。


緊張か恐れかわからない汗が、じわりとこめかみに浮かぶ。



「僕が幸珀に恋をした、運命的な瞬間を」



は?



突然何を言い出したかと思ったら、恋をした瞬間を憶えているかだって?


そんなの、記憶にないどころか、元々知らない。



善兄に関する記憶なんか、全部葬り去りたいくらいだ。