呼びかけてみたものの、反応はない。

声が小さすぎただろうか。

「す…すみません、どなたかいますか?」

今度は少し大きめの声。

…すぐに静寂に包まれたものの、ややあって。

「……」

中から一人の男性が姿を現した。

年の頃四十から五十。

白髪混じりの髪の毛。

無精髭にも白いものが混じっている。

不機嫌そうな表情は、先程まで就寝中だったのかもしれない。

男性は警察官の制服ではなく、完全な普段着のまま私の前に姿を現した。

やはり深夜は交番として機能していないのかもしれない。

「あの…夜分遅くに申し訳ありません…私、他所の土地から来た者なんですけど…」

不機嫌そうな男性を刺激しないように言葉を連ねる。

「実は山の中で道に迷ってしまいまして…できればどこか休めるような場所があれば教えていただ…」

そこまで言った瞬間、私は男性の左手に驚くべきものを発見した。

分厚い刃に木製の取っ手。

切れ味よりは重さと勢いで物を断つ刃物。

あれは…鉈?

何故この人は、こんなものを握っているのだろう。

考える余地すら私に与えず。