歩きながら、窓から少し様子を窺う。

建物の中に、人のいる気配は感じられない。

何しろこの時間だ。

既に就寝していたとしても何ら不思議ではないが。

こんな夜分遅くに呼び鈴を鳴らすのも気が引ける。

どうしようか考えていた矢先だった。

「あ」

私は見慣れた建物を道路の先に見つけた。

交番だ。

その建物も、どこか今風ではない古めかしい感じの造りの交番。

こんな山奥だと…言い方は悪いけど、流行に乗り遅れる事もあるのかもしれない。

そんな事を考えながら、私はその交番へと歩いていった。

明かりはついていない。

村の交番というと、どこかノンビリしているという話を時々聞く。

こんなに人が少なそうな村落では、都会のように24時間交番が機能している必要もないのかもしれない。

…交番の中を、少し覗いてみる。

明かりはついていないのに、入り口は扉すら閉まっていなかった。

声をかけてもいいのだろうか?

「あの…すみません…」

夜中だから大声を出すのは憚られる。

私は囁き声よりは大きい程度の声で、中に呼びかけてみた。