「だから今はできるだけたくさん、ありったけの思いを込めて、おかえりって言おうって決めたの。
私、約束破ってばっかりだから」
正面を見つめたまま、決心したかのように、ぎゅっと口を結ぶ十羽。
「……」
……ったく、こいつは。
俺はなにも返さず手を伸ばすと、膝の上で握り締められている十羽の手を取った。
そして、その手を握ったまま、俺のブレザーのポケットに入れる。
「えっ、楓くん?」
ビクッと肩を揺らし、十羽が驚きの反応を見せる。
「うるせー、ばか。
俺のせいで風邪引かせたら、気分が悪いんだよ」
こんなに手を冷やして、俺を待っていた十羽。
ちっさい手。
……あぁ、腹立つ。