十羽が立ち上がってこちらを振り向く。



表情は穏やかなのに、その目は見たことがないほどにまっすぐで。



口を開いてもひどく冷静で、落ち着いていた。

まるで予め言葉を用意してきたみたいに。



「気になってるよね、さっきの黒瀬くんのこと。
でもね、黒瀬くんの反応は、なにもおかしくない」



十羽は俺を見すえたまま、一瞬もそらすことなく言葉を紡いだ。



「私、死んでるの」



「……十羽が、死んでる……?」



十羽の言葉は、理解の範疇を超えていた。



なんだよ、それ……。



「幽霊なんだ、私。
って、そんなこと急に言われても、信じられないよね。
でも、さっきの黒瀬くんの反応がなによりの証拠だよ。
黒瀬くんには私が見えなかった。
私の家族も、すれ違う人もみんな、見えてない。
楓くんしか見えてないんだよ」



「なんで、いつ」



喘ぐように、頭の中で見つかった最低限の言葉で問う。



「突然倒れて、そのまま。
ちょっと前に」



「……」