心臓が不穏な音を立てている。 混乱が冷めず、俺は現実世界に縋るように隣にいる彼女の名を呼んだ。 「……十羽」 「次はね、あのタンポポ畑に行きたい」 「え?」 俺の呼びかけに被せるように、十羽がしっかりと輪郭の持った声を放った。 「連れて行ってくれないかな」 隣を見れば、十羽が真剣な、そして切願するような瞳でこちらを見つめていた。 なぜか、断ることは、できなかった。