「花〜聞いて聞いて!
今日やっと席替えだってーっ」
そう息を切らしながら教室に入ってあたしに伝えるのは、高校2年になって初めてできた友達の杏-アン。
「〜っあ、やっとかー!今回本当長かったんだけど!」
そう。
席替えなんていつも1ヶ月くらいでするのに、今回はやたらと長かった。
2ヶ月以上は経ってるんじゃない?
「次の席替えは大事じゃない?
ほら、もうすぐ修学旅行じゃん?席替えによって班が決まるわけだからさ」
杏がそんな事を言う。
そっか!
もうすぐ修学旅行だから班行動とかもあるから…
「え!無理!あたし杏と一緒じゃないと修学旅行やってけないんですけど」
「あたしも花いないとやだ〜!」
あたしと違ってふわふわとした見た目の
杏。
ミディアムのふわふわな髪を揺らしながらあたしの机の前でギャーギャー騒ぐ。
2人で騒いでいたら担任が入ってきて、すぐに席替えのくじ引きが始まった。
「あぁ、」
自然と小さく漏れる自信のない声。
ーーお願いします。神様。
杏とどうか、同じ班になれますように。
「えーえいっっ!!!」
念を込め、引く。
「一ノ瀬うるせー!」
席から男子の野次が飛ぶ。
あたしはいつもそう。
男子にはいつも友達としかみられない。
そういうキャラ。
「もー!うるさいなー!せっかくあたしが念を込めて引いてんのに、修学旅行がかかってんだよ?!」
べーっ、と後ろの男子に怒鳴る。
「うっわー。ブス」
「え、まってヒドイ。うん」
「え、まって、事実」
「あんたねぇ…」
ガンガンあたしにつっかかる性悪男子。
和 - カズ。
和とは中学から一緒で腐れ縁だ。
「和の隣だけは絶対無理。疲れる」
「は?なんだよ、それはこっちのセリフだっつの!」
「はいはいはいはい
夫婦喧嘩はそこまでにしなー!」と、杏が止めに入る。
いつもの流れだ。
「「夫婦じゃなーーーいっ!」」
こうしてハモりのツッコミを入れるのもいつもの流れ。
「なーによ、あんた達中学からの仲でしょ?もうなぁ〜んでも知り尽くしてる夫婦じゃない」
ニヤニヤする杏。
「やめてよ、和だけはまぢでない」
いい奴だけど、恋愛対象としてはまぢで見れない。そもそもそんな目で見た事もない。
「俺だってお前みたいなギャーギャーうるさくて女らしくない女無理だね」
「ふんっ、いいもーんだ!別に和に女として見てもらいたくないし」
いつになっても終わらない口喧嘩。
「ったく、花は黙ってれば可愛いのにね、勿体無い。あ、それより番号何番だった?」
…黙ってれば?
あたしってそんなにうるさい?
「あたしは…」
チラッと引いたくじの番号を見るとそこには'4番' と記されていた。
1.2.3番の人が班一緒なわけで、あたしの隣は3番を引いた人。
「4番だった。杏は?」
「あたし1番!え、ってことは先だけど修学旅行の班一緒じゃない?
席も花の前だし!!!やば!!最高」
「え!嘘でしょ?!やばーーーい!!!本当に嬉しい!!こんなことある?!」
「あたし達なんかあるね」
「あるある、運もってる」
ワーワーギャーギャー騒いでいると、
「残念だったな、
俺2番。席、宜しくな〜!」
と杏に言う和。
「え、和って杏の隣?」
「うん。」
「ってことは…」
「修学旅行宜しくな〜」
そうニヤニヤする和。
…嘘でしょ。
こんな偶然ある?
和いるのが最悪だけどまぁ、杏いるからなんとかやっていけそう。
それより、
「ねぇ!!!
3番誰?あたしの隣!!!」
あたしがクラスのみんなに大声で叫ぶと、
誰かが、あたしの隣にガコンと、無言で机を並べる。
誰だ?
「……」
え。
あたし、オワッターーーー。
「た、瀧くんか、よろしく〜…」
「……」
ですよね。
そう、あたしの隣の席はこのクラスで1番暗くて地味でとにかくあまり皆んなと話さない瀧悠人くん。
眼鏡にすごく伸びてる前髪。
とにかく、暗い。
正直関わりたくない。
皆んな、瀧くんのことを変な目で見ている。つまり…まぁその、関わりづらい。
このクラスになってしばらく経つけど、今だにどんな人か分からない。
謎の男の子。
普段は本ばっかり読んでいて、お昼休みには必ず教室からいなくなる。
友達はいない、と思う。
「ブッ、なにお前瀧の隣かよ」
ギャハハと笑う和。
「あたしだって嫌だよ…」
小声で瀧くんに聞こえないように言う。
「まぁドンマイだな!
瀧もこんな女の隣とか絶対嫌だろ?」
と和の野郎は瀧くんにまで話しを振る。
「関係ないので」
バッサーーーーーーーリ。
「ギャハハハハハ、一ノ瀬ドンマイ!関係ないだって!!ッッアハハハ」
「っっっあたしだって、瀧くん暗くて地味だから関わりたくないし!」
つい、和の笑い方にイライラしてしまってこんなことを言ってしまった。
すると、
「関わりたいなど言ってませんけど。
関係ない。と言いました」
眼鏡の奥からジロッとあたしを睨む目をあたしは見逃さなかった。
「……なによ」
前の席の杏。
斜め前の席の和。
そして、隣の席の瀧くん。
あたし…やってけるのか?