「一ノ瀬さん、一緒に帰ろう」




その日の帰り、珍しく悠人くんからの誘いだった。




「うん」




図書室の事があってか、お互い少し気まずい。



鞄を持って教室を出ようとした時だったーー。




「瀧くん!」




……は?


伊藤さんが教室の端から悠人くんを呼ぶ姿があった。


放課後にもなってこいつ…




「何ですか、伊藤さん」


「うん…この後予定ある?
少しここの部分聞きたい事があって」



と、数学のテキストを取り出す。


え?テスト期間デスカ?

何です聞く必要があるの?




「あの、あたし横にいるんだけど」



我慢できなくて、言ってしまった。




「彼女横にいるのに、よく堂々と悠人くん誘えるね」




伊藤さんがおかしいんじゃん。




「ただ…勉強教えて貰おうとしてただけなの。ダメならいいの!」



そう言って顔の前でブンブン手を左右に振る。




……イラ

なにその私いい子アピール。

伊藤さんてただの真面目じゃないみたい……。
あたしが悪いみたいじゃない!












「伊藤さん、いいですけどそれはまたにして下さい。今日は一ノ瀬さんと帰るので。」




え、いいの?

じゃあいつか伊藤さんに2人きりで勉強教えるってこと?!




「意味分かんない!」


「一ノ瀬さん?」



だめ、やめなきゃ。



「なんで、2人きりで勉強教えたりする約束彼女の前でするの?
なに図書室で仲良くしてるの?」




止まらない。




「あたしより伊藤さんとの方が一緒にいる時間長いんじゃない?」




爆発してしまった…




「もう嫌だ!!
あたしだってこんな事言いたくないのに……っ、2人で仲良く勉強してれば?!!」



そのまま教室を飛び出してしまった。



最低だ…。




「うっ…」



涙が止まらない。

あたしってこんな嫉妬マンだっけ…

伊藤さんが悪いんだ。
いつもいつも悠人くんに付きまとうから…










そんな事を考えながらダッシュしていると、



ーーーードンッ


誰かにぶつかってしまった。





「わっ、あっ、すみません」


「え、花?」



えっ、あ、なんだ…



「壮ちゃんか…」




ぶつかったのは壮ちゃんだった。




「壮ちゃんか。って…って、花……泣いてんの?」


「な、泣いて…ないっ」


「嘘つくな」




壮ちゃんにはやっぱりバレバレで、涙がどんどんと溢れてくる。




「まぢまぢまぢどーした?!」


「ぞぞぞう゛ぢゃ゛ーん゛んん」


「なになになになに、花ちょっと泣きすぎだって」


「ううう…あたし最低っ…何であんな事言っちゃったんだろう…絶対フラれるよぉぉ…」




壮ちゃんの腕にしがみつく。














優しくあたしの背中をさすってくれる壮ちゃん。

そのおかげで少し落ち着いた。




「花、大丈夫か?」


「う、うん…ありがとうね」


「……」


「もう大丈夫」


「花…どうせ原因は瀧だろ?」




そう真っ直ぐあたしの目を見て言う。


けど、あたしは何も言えなくて…ずっと黙ったまま、壮ちゃんの瞳を見ていた。


なぜか、反らせなかった。




「花……俺にしなよ…」




そして、顔が少しずつ近づいてくる。









「だめ……、壮ちゃん」



顔を反らす。














「……俺だったら、こんな泣かせないのにな。……ほら、帰るぞ」



「……うん」





その日はそのまま壮ちゃんと一緒に帰った。





こんなに好きなのに。

信じてるはずなのに。





不安になってしまうーー。









それからあっという間に1週間が経ち、修学旅行の日となった。


あれから、悠人くんとは挨拶くらいは交わすけど会話はしてない。


あたしが避けてるのかも。

気まずすぎてどうしていいのか分からない。


このままでいいのかな?


と考えてる日々が続いて、今日がきた。



只今飛行機の中。

台湾に向かっております。



「花、ちゃんと瀧くんと話さないと。
こんなの花の一方的で、瀧くんも何て声かけたらいいか分かんないんだと思うよ?」



ちなみに飛行機の席は杏と隣。

後ろに悠人くんと和が座っている。



「分かってるんだけど…怖いんだよね。あんな言い方しちゃったし…」


「ホテルできっかけ作ってあげようか?」



杏がノリノリでそんな提案を出すが、ホテルでなんて先生にバレた事を考えると恐ろしい。




「ごめん、あたしちょっとトイレ」




狭い通路を歩きトイレと向かう。












もうなに…誰か入ってるし。

戻るのもダルいし、出てくるまで待っていた。


しばらくして、ガチャ と鍵が空く音がし、中から人が出てきた。




「あれ、一ノ瀬さん」


「……伊藤さん」




1番会いたくない人がいた。




「ごめん、待ったよね、どうぞ」


「…うん」




すれ違いで入ろうとした時だったーー、




「このままだったら私、本気で瀧くん貰いに行きますよ?」





ーーーえ。



耳元で早口で言ってきたが、ハッキリと聞き取れた。



いい返そうとしたけどもうそのには伊藤さんはいなかった。




「…ほ、ほらぁ」



やっぱり。

女の勘は当たるものだ。




伊藤さんやっぱり悠人くんの事が好きだった。




はぁ…

あたしだって男友達結構いるし、悠人くんの珍しい女友達くらいどうってことない。って考えるようにもしたけど…


気があるってなると話しは違う。



ここで、あの時の坂村くんの気持ちが少し分かったよ……。















ーー杏sideーー



花がお手洗いに行っている間に、あたしは後ろにいる瀧くんに聞いてみた。





「何であんた達微妙なの今」


「別にケンカなどしてませんけど…ただ、一ノ瀬さんが避けてくるので….話せないんですよ」




いわゆる花の一方的進行なわけか。



…全く。





「きっと一ノ瀬さんは僕に怒鳴った事もあってか気まずいのだと思います。

まぁ、一ノ瀬さんが怒鳴る意味も分かりませんけど。自分だって同じような事してるので」




あぁ、例の幼なじみの壮介くんか。


お互いが嫉妬してるけど、瀧くんは何も言わず我慢してて花は爆発した感じね。












「ちっせーな、お前ら。
んなの普通に話し合えば解決するんじゃねーの?」




寝ていたと思った和が口を開いた。




「んー….、
そうですね…なんとかします。」


「ほんとに頼むよ〜。
これじゃあせっかくの修学旅行楽しめないんですけどー。」





お互い不器用すぎる。


花も花だ。

自分ばっかりすぐカーッとなってしまうところがいけない。



真っ直ぐで素直なところがいいんだけど、たまにそれが悪く出る。



すると、花が戻って来たかと思ったら…




「は!!!」




すっげー号泣してる…え、なになになにお手洗いの間に何があったんだ。






「……杏、うっ…あたし….宣戦布告されちまったよ…」










ーー杏sideおわりーー