あまりにも自分が最低過ぎて…言葉を詰まらせながら謝った。




「あたし…ちゃんと壮ちゃんの事好きだった。好きだったけど…」


「気持ちは変わってった。だろ?」


「……っ」



また、あたしの心の声を読み取る壮ちゃん。



「悔しいなー、
でもまだ期待していいだろ?」


「え?」


「ちゃんと昔俺の事好きだったんだろ?だったらまた俺の事好きになるようにしてみるよ」


「……え、は?!?!」




どどどうゆうこと?!

あたしには悠人くんがいるのに!












「瀧なんか関係ねーし。

そもそも幼なじみの俺の方が花の事知ってるしな!絶対もう一度俺の方に振り向いてくれるように…

…花を落とす」





………え、え…え、




「覚悟しとけよ、花」



そう言ってあたしの後頭部に手をまわし、自分の元に引き寄せ…



「えっ…」



顔が近づいたかと思えば、


ちゅ とあたしの頬にキスをした。






「そそそそそそそ壮ちゃんっ?!!」



びっくりして、壮ちゃんを押し退けた後、自分の頬に手を当てる。




「ふっ、じゃーな」




そう言って部屋から出て行った。









「……なに、これ」




しばらくそこから動けませんでした。


















”落としてやる宣言”から1週間。




「はーな、今日の宿題みして」


「ちょ、壮ちゃん近い」



あたしと壮ちゃんの距離は数センチほど。



「ん?
この方が俺のこと意識するでしょ?」


「……」




壮ちゃんがかなりガンガン攻めてきます。

正直どうしていいのか…





「てか、修学旅行まであと1週間もないじゃん。俺ら班一緒だから楽しみだな」



そうだ。

季節はあっという間に10月。


楽しみにしていた修学旅行がなんだかとてつもなく不安になってきた。


壮ちゃんは転校してきて、あたしの後ろの席っていうのもあって、あたし達の班に混ざることになったのだ。




「不安でしかないわ…」


「俺もいるし、瀧くんもいるしね?」



とニヤニヤする壮ちゃん。




「なんか壮ちゃんそんなんだっけ?中学で一体何があったの」


「え?何もないけど?」



と意地悪そうにチャームポイントでもある八重歯を見せる。







「一ノ瀬さん、もう授業始まるので静かにしてはどうですか」




は!


いつの間にか悠人くんは隣の席に座っていた。



「う、うん…」















びっくりした…




「悠人くん、もうすぐ修学旅行だね」


「そうですね」


「楽しみだねっ」


「うん」



…あれ、何か反応が…



「悠人くん」


「何です、もう授業始まりますよ」


「…ごめん」




何だか…機嫌が悪い。

あまり話しかけない方が良かったのかな…













そして時間はあっという間に過ぎ、お昼の時間となった。



「花、昼一緒に食べようぜ」



と壮ちゃんが誘うけど、



「ごめん、悠人くんと食べてくる」



さすがにあのままじゃ、あたしも納得いかない。




「そっか、分かった。
また俺とも食えよなー!」


「んー。考えとく!」




あははは、と笑いながら教室を出る。




いつものようにお弁当を持ちながら、図書室へ向う。



……が、





「悠人く…ん」



…またいる、あの女……


あの女とはもちろん伊藤さんの事。




「瀧くんこれ、昨日言ってた本。忘れずに持ってきたよ」


「ありがとうございます。なるべく早く返します」


「ゆっくりで大丈夫だよ」




…もう嫌だ。

最近全然2人きりになれない。




帰ろうとした時だった。




「一ノ瀬さん?」




ーーーっ、




悠人くんの声がしたけど、あたしは無視してそのまま走った。



知らないもう知らない知らない!

悠人くんなんか知らない!



伊藤さんの図書室であたしがいない間に仲良くしちゃって!






……待って。


あたし人の事言えない…よね…


あたしだって壮ちゃんと…



あたしが今思ったこの気持ち…悠人くんも同じだったのかなーー?


さっき、教室で不機嫌だったのはあたしの今の気持ちと一緒だったのかな?





嫉妬 って、こんな辛かったっけ。




「はぁ…」

















「一ノ瀬さん、一緒に帰ろう」




その日の帰り、珍しく悠人くんからの誘いだった。




「うん」




図書室の事があってか、お互い少し気まずい。



鞄を持って教室を出ようとした時だったーー。




「瀧くん!」




……は?


伊藤さんが教室の端から悠人くんを呼ぶ姿があった。


放課後にもなってこいつ…




「何ですか、伊藤さん」


「うん…この後予定ある?
少しここの部分聞きたい事があって」



と、数学のテキストを取り出す。


え?テスト期間デスカ?

何です聞く必要があるの?




「あの、あたし横にいるんだけど」



我慢できなくて、言ってしまった。




「彼女横にいるのに、よく堂々と悠人くん誘えるね」




伊藤さんがおかしいんじゃん。




「ただ…勉強教えて貰おうとしてただけなの。ダメならいいの!」



そう言って顔の前でブンブン手を左右に振る。




……イラ

なにその私いい子アピール。

伊藤さんてただの真面目じゃないみたい……。
あたしが悪いみたいじゃない!












「伊藤さん、いいですけどそれはまたにして下さい。今日は一ノ瀬さんと帰るので。」




え、いいの?

じゃあいつか伊藤さんに2人きりで勉強教えるってこと?!




「意味分かんない!」


「一ノ瀬さん?」



だめ、やめなきゃ。



「なんで、2人きりで勉強教えたりする約束彼女の前でするの?
なに図書室で仲良くしてるの?」




止まらない。




「あたしより伊藤さんとの方が一緒にいる時間長いんじゃない?」




爆発してしまった…




「もう嫌だ!!
あたしだってこんな事言いたくないのに……っ、2人で仲良く勉強してれば?!!」



そのまま教室を飛び出してしまった。



最低だ…。




「うっ…」



涙が止まらない。

あたしってこんな嫉妬マンだっけ…

伊藤さんが悪いんだ。
いつもいつも悠人くんに付きまとうから…










そんな事を考えながらダッシュしていると、



ーーーードンッ


誰かにぶつかってしまった。





「わっ、あっ、すみません」


「え、花?」



えっ、あ、なんだ…



「壮ちゃんか…」




ぶつかったのは壮ちゃんだった。




「壮ちゃんか。って…って、花……泣いてんの?」


「な、泣いて…ないっ」


「嘘つくな」




壮ちゃんにはやっぱりバレバレで、涙がどんどんと溢れてくる。




「まぢまぢまぢどーした?!」


「ぞぞぞう゛ぢゃ゛ーん゛んん」


「なになになになに、花ちょっと泣きすぎだって」


「ううう…あたし最低っ…何であんな事言っちゃったんだろう…絶対フラれるよぉぉ…」




壮ちゃんの腕にしがみつく。














優しくあたしの背中をさすってくれる壮ちゃん。

そのおかげで少し落ち着いた。




「花、大丈夫か?」


「う、うん…ありがとうね」


「……」


「もう大丈夫」


「花…どうせ原因は瀧だろ?」




そう真っ直ぐあたしの目を見て言う。


けど、あたしは何も言えなくて…ずっと黙ったまま、壮ちゃんの瞳を見ていた。


なぜか、反らせなかった。




「花……俺にしなよ…」




そして、顔が少しずつ近づいてくる。









「だめ……、壮ちゃん」



顔を反らす。