……は?



「部屋に俺といる事があんまりよろしくないと思ってんだろ?どーせ」



だから何故分かる!

悠人くんにもすぐ心の中読まれるし…




「花」



壮ちゃんが漫画を置き、立っているあたしにゆっくり近づく。



「は、はい…?」




謎に敬語になってしまった。





「何で瀧と付き合ってんの」


「え?」



さっきまで笑っていた顔が真剣な表情になる。




「ど、どうしたの、壮ちゃん」


「俺が、北海道に行く前に花に告白しようとしてたの覚えてる?」


「あ…」













それは4年前ーー。



あたしと壮ちゃんはまだ小学6年生だった。




「壮ちゃん…ほんとに行っちゃうの?」


「ごめんね…花」




あたしはその頃、壮ちゃんとの別れがものすごく辛くて、悲しかった。


壮ちゃんとはほぼ毎日一緒にいて、大好きだったから。

幼なじみとしてではなく、ちゃんと異性として好きだった。




「でも…俺、大きくなったら必ず戻るから…絶対」


「うん…」


「俺ね、花の事っ…「壮介〜もう行くからおいで〜」



壮ちゃんは多分この時あたしに告白しようとした。

けど、お母さんに呼ばれてそのまま行ってしまったんだ。



…きっと、この事だ。



















「覚えてるよ。

あたしも壮ちゃんの事好きだったから。あの時期待してたし、待ってた… 」




毎日一緒にいて、優しくて、面白くて、そんな壮ちゃんの事ただの幼なじみだなんてその当時は思えなかった。


好きだったーー。




「待ってる、って約束したじゃん」




そう言って悲しそうに笑った。




「……俺はずっと花の事が好きだったんだ。北海道行っても、花の事しか考えられなかった」


「壮ちゃん…」


「花は簡単に忘れちゃったんだな。だってさっき俺が覚えてる?って聞いたら、今思い出したかのような顔してた」




どうしよう、どうしよう…

本当に忘れていた。


いや、でも思い出した。


あたしも壮ちゃんの事好きだったけど、4年という月日が流れてしまったんだ…気持ちなんて変わってしまう。



でも壮ちゃんは変わらずあの時のまま、あたしをずっと好きでいてくれてた。





あたし…最低だ。



「約束…破っちゃって…ごめん…っ」
















あまりにも自分が最低過ぎて…言葉を詰まらせながら謝った。




「あたし…ちゃんと壮ちゃんの事好きだった。好きだったけど…」


「気持ちは変わってった。だろ?」


「……っ」



また、あたしの心の声を読み取る壮ちゃん。



「悔しいなー、
でもまだ期待していいだろ?」


「え?」


「ちゃんと昔俺の事好きだったんだろ?だったらまた俺の事好きになるようにしてみるよ」


「……え、は?!?!」




どどどうゆうこと?!

あたしには悠人くんがいるのに!












「瀧なんか関係ねーし。

そもそも幼なじみの俺の方が花の事知ってるしな!絶対もう一度俺の方に振り向いてくれるように…

…花を落とす」





………え、え…え、




「覚悟しとけよ、花」



そう言ってあたしの後頭部に手をまわし、自分の元に引き寄せ…



「えっ…」



顔が近づいたかと思えば、


ちゅ とあたしの頬にキスをした。






「そそそそそそそ壮ちゃんっ?!!」



びっくりして、壮ちゃんを押し退けた後、自分の頬に手を当てる。




「ふっ、じゃーな」




そう言って部屋から出て行った。









「……なに、これ」




しばらくそこから動けませんでした。


















”落としてやる宣言”から1週間。




「はーな、今日の宿題みして」


「ちょ、壮ちゃん近い」



あたしと壮ちゃんの距離は数センチほど。



「ん?
この方が俺のこと意識するでしょ?」


「……」




壮ちゃんがかなりガンガン攻めてきます。

正直どうしていいのか…





「てか、修学旅行まであと1週間もないじゃん。俺ら班一緒だから楽しみだな」



そうだ。

季節はあっという間に10月。


楽しみにしていた修学旅行がなんだかとてつもなく不安になってきた。


壮ちゃんは転校してきて、あたしの後ろの席っていうのもあって、あたし達の班に混ざることになったのだ。




「不安でしかないわ…」


「俺もいるし、瀧くんもいるしね?」



とニヤニヤする壮ちゃん。




「なんか壮ちゃんそんなんだっけ?中学で一体何があったの」


「え?何もないけど?」



と意地悪そうにチャームポイントでもある八重歯を見せる。







「一ノ瀬さん、もう授業始まるので静かにしてはどうですか」




は!


いつの間にか悠人くんは隣の席に座っていた。



「う、うん…」















びっくりした…




「悠人くん、もうすぐ修学旅行だね」


「そうですね」


「楽しみだねっ」


「うん」



…あれ、何か反応が…



「悠人くん」


「何です、もう授業始まりますよ」


「…ごめん」




何だか…機嫌が悪い。

あまり話しかけない方が良かったのかな…













そして時間はあっという間に過ぎ、お昼の時間となった。



「花、昼一緒に食べようぜ」



と壮ちゃんが誘うけど、



「ごめん、悠人くんと食べてくる」



さすがにあのままじゃ、あたしも納得いかない。




「そっか、分かった。
また俺とも食えよなー!」


「んー。考えとく!」




あははは、と笑いながら教室を出る。




いつものようにお弁当を持ちながら、図書室へ向う。



……が、





「悠人く…ん」



…またいる、あの女……


あの女とはもちろん伊藤さんの事。




「瀧くんこれ、昨日言ってた本。忘れずに持ってきたよ」


「ありがとうございます。なるべく早く返します」


「ゆっくりで大丈夫だよ」




…もう嫌だ。

最近全然2人きりになれない。




帰ろうとした時だった。




「一ノ瀬さん?」




ーーーっ、




悠人くんの声がしたけど、あたしは無視してそのまま走った。



知らないもう知らない知らない!

悠人くんなんか知らない!



伊藤さんの図書室であたしがいない間に仲良くしちゃって!






……待って。


あたし人の事言えない…よね…


あたしだって壮ちゃんと…



あたしが今思ったこの気持ち…悠人くんも同じだったのかなーー?


さっき、教室で不機嫌だったのはあたしの今の気持ちと一緒だったのかな?





嫉妬 って、こんな辛かったっけ。




「はぁ…」

















「一ノ瀬さん、一緒に帰ろう」




その日の帰り、珍しく悠人くんからの誘いだった。




「うん」




図書室の事があってか、お互い少し気まずい。



鞄を持って教室を出ようとした時だったーー。




「瀧くん!」




……は?


伊藤さんが教室の端から悠人くんを呼ぶ姿があった。


放課後にもなってこいつ…




「何ですか、伊藤さん」


「うん…この後予定ある?
少しここの部分聞きたい事があって」



と、数学のテキストを取り出す。


え?テスト期間デスカ?

何です聞く必要があるの?




「あの、あたし横にいるんだけど」



我慢できなくて、言ってしまった。




「彼女横にいるのに、よく堂々と悠人くん誘えるね」




伊藤さんがおかしいんじゃん。




「ただ…勉強教えて貰おうとしてただけなの。ダメならいいの!」



そう言って顔の前でブンブン手を左右に振る。




……イラ

なにその私いい子アピール。

伊藤さんてただの真面目じゃないみたい……。
あたしが悪いみたいじゃない!