やばいやばい…、
急いで口元をティッシュでふき取る。
「お前、汚い」
ぐはっ
お兄ちゃんの一撃であたしの心が…しかも悠人くんがいるってゆうのに…
「 ゆ、悠人くん、そんな事答えなくていいから!無視しちゃって」
お母さんからの質問が恥ずかしくてそんな事を言ってしまう。
内心…気になったりも、する。
「…え、っと…
僕と正反対な所…ですかね」
…え?
what? ワンモアプリーズ。
「え、えと、あの…悠人くん…それはどどどーゆうことですかねぇ?」
普通は、可愛いくて〜とか、優しくて気が利いて〜とか可愛いくて〜とかじゃないの?!?!
目力をさらに強くし、悠人くんを見る。
「…や、
僕と正反対だから、僕に持ってないものを持ってて毎日一緒にいて飽きないし、楽しいんですよ」
「…え」
「僕、ずっと1人だったんです。
1人が好きで本読んでたり、孤立してて…周りからは関わりづらいと思われ、変な目で見られてたんです」
淡々と話す悠人くん。
その話にお母さんもお兄ちゃんも箸を動かすのを止めた。
「そんな中、花さんと隣の席になって話すようになって…こんな僕にズカズカと入ってくるんです。
うるさいし、バカだし、でも素直でまっすぐで….そんな所に惚れました。僕と間逆な所に。
…いつの間にか、好きになっていました。覚えてません」
そう言って柔らかく微笑んだ。
…そんな風に思ってくれてたなんて。
「やだぁ〜〜〜っ、こっちが照れちゃうわ!も〜〜お、花ったらいい彼氏ゲットしたじゃないの!」
バシッとあたしの肩を叩く。
「ありがとう…悠人くん」
「いいえ…」
お礼を言うとフイッとあたしから顔を反らした。
ふふっ、照れてる。
その日は、終始ニヤニヤが止まらなかったのでした。
○
*
・
夕食も食べ終わり、悠人くんは帰ることに。
「瀧くん、またいらしてね?」
「はい。ありがとうございます。
今日はご馳走様でした、美味しかったです。」
「嬉しいわ〜!
花、見送ってあげなさいね。
じゃあ気をつけてね、瀧くん」
お母さんはそう言って部屋の中に帰ってしまった。
外に出ると、モワッと 夏の湿気の暑さがあたしたちの身体を包む。
「 悠人くん今日は本当にありがとう。お母さんとお兄ちゃんが無理矢理ごめんね?」
「何言ってるんです。凄く楽しかったですよ」
「ならよかった…あと…」
「あと?」
「さっき言ってくれた事…すっごく嬉しかった…本当に」
「……忘れて下さい」
ほんのり顔が赤くなる悠人くん。
これは、照れてるのか?
えいっ と悠人くんの頬を両手で挟む。
「……なんですか、これは」
「照れてるくせに、忘れて下さいなんてひどいなぁ、悠人くん。」
「……」
何も言い返さず、石のように固まってしまっている悠人くん。
そんな姿があまりにも可愛くて、
ーーーちゅっ
思わず鼻に、キスをしてしまった。
「はっ…花?」
目を、まんまるにして驚く悠人くん。
「大好き」
大好きだよ、悠人くん。
「僕もです。」
そう言ってあたしを優しく引き寄せる。
ぎゅっ と抱きしめられているせいかさらに暑さが増す。
「もう行きますね」
そっと離れる腕。
「….うん」
「また明日学校でね。
おやすみ」
「おやすみなさい、また明日」
ヒラヒラと手を振る。
どんどん、小さくなる悠人くんの後ろ姿。
あーあ、行っちゃった…まだもうちょっと一緒に居たかったのになぁ。
なんて、言えないや。
そんな事を思いながら家に入った。
「 ん? あれって花?
さっきの…花の男か?」
あたしが入ったドアの向かいで、誰かがそんな事を呟いていたーー。
次の日の朝、なぜだか学校が騒がしく感じた。
今日は悠人くんとは別々の登校。
最近は、一緒に行ったり帰ったりするのはたまーにだ。
「悠人くんおはよう。
今日は早いんだね」
わざと嫌味っぽく憎たらしく言った。
だって教室に入るとあたしと一緒に登校せず、ちゃっかり早くに席着いてまた難しい本を読んでいるんだもん。
「何か怒ってるんですか?」
「んー?べっつにぃ〜」
悠人くんはそういう人。
あたしから連絡しないとなんだけどね…
ふいっ と顔を背けて自分の席に座る。
面白そうだから、わざと怒ったふりをしてみる。
「花さん」
え?花”さん”?
「さん?」
「え?」
「昨日は花って呼んでくれたのに…なんだか急に他人みたい」
これもわざと。
昨日だって、ちょこちょこ”一ノ瀬さん”に言い方戻っていた。
さすがに分かる。悠人くんの事だから、まだ呼び捨てにするのが違和感なんだろう。
「すみません。
…その、まだ慣れなくて。やっぱりまだ一ノ瀬さんの方が言いやすいです」
申し訳なさそうに下を向く悠人くん。
ふふっ、可愛い。
「なにニヤニヤしてるんです」
「へっ?」
急いで口元を手で覆った。
「なるほど、
僕をからかって面白がってたんですね」
「や、違うの!
あのっ、いやっ、違わないか!あーーーーー違う違う違う本当に!!」
「……」
「ご、ごめんなさぃぃ」
「ふっ、後で覚えておいて下さい」
はぁーぁ、いつもこれだ。
悠人くんにはかなわない。
ーーー”後で覚えておいて下さい”
えっ、
「はっ!なにする気!
なにする気なのよ!悠人くん!ちょっとーーっ!聞いてんの?!」
スタスタと歩き教室を出て行く悠人くん。
「バーカ」
そう口パクで言ってニヤリと笑う。
え…
ボッ と顔が赤くなる。
「なーに赤くなってんのよ!」
バシッと私の頭を叩くのは杏。
「それより花!大ニュース」
「大ニュース?」
目をキラッキラに輝かせる。
「うん!このクラスに転校生来るみたいだよ!しかも…めっちゃイケメン!」
「え!!!このクラス?!」
イケメンですと?!
って喜んじゃダメダメ。
「イケメンだろうが、あたしには悠人くんが1番かっこいいんだもん」
「はーぁ?
瀧くん正直どこがかっこいいのか分かんないし」
ーーなっ!
「前髪切ってコンタクトにしたらとてつもなくかっこいいんだから!!」
…すると、
「じゃあカッコよくなって明日来ましょうか?いいんですか?一ノ瀬さん、みーーーんな僕を見ますよ?」
あれ、図書室に行ったんじゃ…
ニヤリと上からあたしを見下ろす。
「え、瀧くんってこんな感じなの?」
目が点になる杏。
たまに出るんだよなあ、ちょっと意地悪な悠人くん。
「でっ、でもダメ!」
悠人くんがかっこいいのバレたらあたしが困る。
すると、チャイムが鳴り一斉にみんな席につく。
ガラガラっと教室の扉が開き、先生と転校生らしき人が入ってきた。
ドッ と騒がしくなる教室内。