陽炎のごとく、人影は二人の前に現れる。
闇の中にも関わらず、輝く2つの赤と白髪。後ろの襟足だけが細く長く、無造作に一つに束ねられている。
ニヤリと歪められた唇はとてもとても楽しそうに笑った。

そして、男は漸く今すれ違った影の手に鈍く光る銀色……トンカチが握られていることを知った。
たかがトンカチとは言え、今すれ違い様に頭に一撃を食らったとしたら……怪我無しでは済まされない。それどころか、当たりどころが悪ければ死ぬだろう。
そこまで考えて、男は闇の中でもはっきりとわかるくらい表情が青ざめた。

「ど、どういうことだ?!!貴様、誰だ?!!」

「誰…?誰だって?」

太い腹をした男の言葉に、影は初めて声を荒げた。声はまだ若々しい。
影は自分が被っていた布を荒々しく剥ぎ取る。剥ぎ取った布の下から出てきたのは、想像していたよりも幼い顔だった。
歳は十代前半頃だろうか。その目は太い腹の男を憎々しげに睨みつけていた。
現れた子供の姿に、太い腹の男は眉を寄せ目を細めて首を傾げる。
……どこかで見覚えが……。
一瞬だけ殺されかけたことも忘れ、少年の顔を思い出そうとじっと見つめる。

「……思い出せないかい?」

憎しみを込めた声で、少年は男に問いかけた。