ある日の夜、とある路地。


男は月の光を浴びながら、一人人気のない路地を歩いていた。
毛皮のコートにステッキ。恰幅の良い腹が金持ちであることを匂わせる。
誰も居ない路地なのに、少々偉そうにふんぞり返って歩くのは日頃の癖なのだろうか。
得意げに鼻歌まで歌う彼は、つい先ほど商談を纏めたばかりだった。
高級レストランで商談相手と上手い食事をして、彼は満足していた。商談は上手く纏まり、人生が薔薇色に見える…つまりは、そんな幸せに満ち溢れた気分を味わいながら帰っていた時だった。



路地裏から彼の前に、フラリと現れる黒い影。
大きさからしてまだ子供のようである。大きな布を頭からすっぽり被っており、顔はよく見えない。この街では特別珍しいことでもなく、彼は気にせず通り過ぎようとした。二人がすれ違い、また一歩踏み出そうとした時、

「オイオイオイオイ!」

とてもテンションが高い、男の声が闇に響く。
二人はビクリと体を震わせ、男は振り向き、子供と思われる影は、目の前にゆらりと現れた人影を注視した。

「俺の見ている前でなぁにやろうとしてくれちゃってんの。」

ゆらりと。
そんな表現が相応しい。