こうして送ってもらうことは初めてじゃないから、彼ももう慣れた様子。私の部屋番号が地面に印字してある場所だって私に聞くまでもない。
「ありがとうございました。」
「ん。」
彼がシフトレバーをパーキングに移動させている間に、私はシートベルトを外した。
「デートは来週ですよね?」
このまますぐ車を降りるのもなんだから、デートの約束の最終確認。
「映画かぁ。」
「うん。」
「どんな話なんですかね。」
聞き役に回っていた彼が途中からくすっと笑い始める。
「何ですか、笑って。」
笑う要素ないでしょうよ。
「いや…。
そんな大事そうに確認してきて、
市田デートすごい楽しみなのかなぁって。」
色っぽい目で私を捕らえた。
「……た、のしみですよ。」
これまたぼそぼそっと呟く私、おまけに目線は膝小僧。
「ふーん。」
そんな私をまた意地悪く見守る。
「またからかって!」
何だかじっとしていれなかった私は誤魔化すように、彼の肩あたりでも小突こうかと手を振り上げた。
だけど。
「あっ。」
その手は振り下ろすことなく彼に奪われて。
「市田」
私の唇も盗んでく。
「おやすみ、市田。」
短いそれを終えて、余裕そうな笑みを浮かべる速水さん。
「……ばか。」
不意打ちなんてずるいよ。
ぷいっとそっぽを思わず向いた。