「あんた木野さんのことどうするつもり?」
 そこで出てきた彼女の名に一瞬私はびくついた。

「この間すごい露骨だったじゃない。
いつもああなの?」

「あーお酒が回ると、確かにいつもよりボディタッチ大目になっちゃうんですけど。
この間はなんか……」
 代わりに答えたのは内川くんだった。

「ずっと腕持ってたわよ。」

「え…。」
 その事実に思わずそう呟いてしまう。
ただ功を奏して、誰にも聞こえてない。

「私がいるからじゃないわよね?
あと、まさか気持ちに気づいてないとか馬鹿なことは言わないでしょ?」
 頭上で行き交う、木野さんのこと。


どうしよう、この話もう聞きたくないかも。
あんな風に木野さんに言われた後だから、飲み会でも速水さんにかなりのことしたのかなって想像はしてたけど。

いざ聞いたら思ってたよりもツライ。
なにより木野さんは悪くないんだ。

だって速水さんと私が付き合ってるって知らないんだから。
純粋に、速水さんのことが欲しくてやってることなんだから。

「わたし、ちょっとトイレに…」
 そう言って席を立とうとした瞬間、急に右手にぬくもりを感じた。

「あっ。」
 テーブルの下。
誰にも見られないとこ。

速水さんが私の手を握ってる。


「内川も言ってたけど酔いが回ったら、あいついつもああだから。
注意しても聞かないから、俺その場から逃げたし。

気持ちにも言われれば答えるけど、伝えられてもないのに俺も断れないしさ。」

「まぁ……そうよね。」

「……じゃぁ断る気なのね?」
 一色さんの言葉にうなずく速水さん。

「ごめん。」
 そう言った彼の言葉は、場を壊してしまったことにじゃなくて私に当ててくれたように思える。

それを裏付けるかのように、またひと際強くなる彼のぬくもり。