吉田は気まずそうな顔をしたが、
やがて口を開いた。
「白石が来た、って思ったんだよね俺。匂いで分かった、近くにいる、って」
いつも以上に平凡な顔で言ってはいるものの、
『匂いで分かった』
その言葉に喜んでる自分がいた。
なんかいつも一緒にいるから、みたいな表現に聞こえて。
……これじゃあ私乙女みたいじゃんっ。
「へ、へえ……匂いで分かるほど一緒にいた覚えないけど」
喜んでいたのにも関わらず、
私から出るのはこんな言葉。
結局前と変わってない。
……っもう!私はツンデレなの!?
自分にイライラしていると、それを抑えてくれたのは他でもない吉田だった。
「いや、一緒にいたじゃん。席も隣で班も一緒で肝試しもバスも全部一緒じゃん」
「……ったしかに。最悪だね」
吉田が「一緒にいたじゃん」なんて言うと思わなくて。
びっくりしすぎて、照れすぎて、
思わず最悪だねだなんて言ったけど、でもっ。
嬉しい……素直に……。
ごめん、好き。……あんなに嫌いだったけど、好き。
「吉田……っ、あのさっきは、」
「さっきは悪かった」
「……え?」
私が言おうとした言葉を先に言われて言葉が詰まる。
だって吉田悪いことなにもしてないよ!
ただ私が一方的に好きになって
一方的に傷ついて
一方的にキレただけであって……。
しかも大嫌いとか言っちゃったし……ぁあああ!!!
頭を抱えるレベルでやらかしたというのに、
吉田はいたって平凡ヅラで話を続ける。
「その……白石のこと考えずにからかったらして、悪かった」
「ほんとごめん」と平凡ヅラを深々と下げる吉田。
白石のこと考えずに、って!
からかったりして悪かった、って!!
きっと吉田は私がなんで怒ったのか分かっていない。
でも謝っている吉田。
それを見ると笑いが込み上げてきて……。
「……ぶっ吉田おもしろっ」
思わず吹き出してしまった。
「っ人が真剣に謝ってんのに!」
「謝っても平凡だね!よーーしだ!」
「コーージマみたいな言い方すんな!コジマのCMかよ!」
いつも通りに……戻った、わけで。
私も我を取り戻し、いつもの毒舌をゲットした。
でも。一つだけ違うよ。
「私もごめんね、大嫌いとか叫んで」
平凡ヅラよりも深々とお辞儀をして謝った。
後ろでビックリしている莉緒と愛音ちゃんの声が聞こえるけど今は無視!
「大嫌いは言いすぎたよ!まあせいぜい嫌いってとこかな。吉田、平凡だもん」
「っお前なあ……」
呆れる吉田の背中をバシッと叩く。
「……ってぇ!!」
「……けど!これからは真依ちゃんに好きになってもらえるようにがんばってね〜」
「……は!?」
自分の不器用さにとことん呆れる。
好きになってもらえるようにがんばってね〜って。
もう好きだけどね、吉田。
不器用な私なりの恋、
いつか想いは伝える……から。
私はヒラヒラと手を振ってダッシュで教室を出た。
見てろよ瑞希ちゃん……
立場逆転の大襲撃が始まるからな!!!
「吉田、これどういう意味!?」
あれからというもの、私は完全にプライドというプライドを脱ぎ捨て、
その脱ぎ捨てたプライドを川に流すほどの勢いで、
吉田を好きになった。(表現が謎)
愛音ちゃんと莉緒が2人して眼球出そうなほど驚いているが、私は1度決めたらガチ勢貫くタイプなの。
だからもういくら吉田が平凡でも、
可もなく不可もなくでもっ!!
私はありのままの吉田がすきなの。
今は吉田が私の王子様なの!!!(洗脳されたかのような変わり様)
「これ?俺もわかんねーごめん」
私の質問にこう返されても全然平気!
前だったら、
『は?ふざけんな平凡くず野郎』
『これだから平凡は……!』
『可もなく不可もなくどころかもう、可もなく不可ありまくりになってるよ』
と言ってるところだが今の私は一味、いやふた味違う!
「おっけー!ありがと!」
「……どうした白石。最近おかしくない?」
吉田にまで怪しまれるほどの変わり様である。
「そう?前からこんな感じじゃない?」
ほら、こう笑顔も作れるようになった。
いつも廉くんに向けてたみたいな天使級スマイ……
「なんか変。調子狂う」
グサッ。
人の素直な態度に「変」だと!?
は!?
……もうやめた!
天使級スマイル作戦変更!!
「なーんてね。私が吉田に優しくするわけないでしょばーーーか」
結局いつものスイッチが入ってしまう。
まあこの方が居心地いいけどさ……。
「うん、この方がよっぽど白石らしい落ち着く」
そう言って机にだるそうに平凡ヅラを突っ伏す。
……いやいやいや、それはそれで複雑なんですが!
毒舌の方が白石らしい、って!
落ち着く、って……!
吉田がMなのかって話になるし、
私は一体何として見られてるよかも謎すぎる。
……色々問題ですけどそれ!
でも隣ですやすやウトウトしているこの平凡を見ているとそんなのどうでもよくなった。
世界は平和だなーって思うよねこの顔見てると。
目を完全に閉じてしまった吉田の平凡な顔をしばらく眺めていると、目に入った後ろのカレンダー。
そして私は気づいた。
「……明日から夏休み!?」
「急にうるさいな……なにごと」
「えっ、だから今日で学校終わりなの!?」
驚く私と眠そうな吉田。
でも待ってよ、夏休みってことは……!
「会えなくなるじゃん……!!」
「誰と?」
吉田がじーっと私を見て聞いてきたところで
私が声に出していたことに気づいた。
「いや別に〜」
「なんだよ、教えてくれてもいいじゃん」
「吉田なんかに教えるか」
「……はいはい」
教えられるわけないもんっ。
だって吉田に会いたいって思ったから!!
平凡だけど!!
……平凡、だけど!
本当は好きになる予定なんか全くなかったのに!
皆無だったのに。!
……いや〜、人生本当なにがあるかなんて分からないもんだね。
「白石夏休みなにすんの?」
吉田が拗ねたような口調でそう聞いてきた。
さっき教えてくれなかったことを根に持っている、らしい。
「んー、遊ぶ。あと祭りとプール行きたいし、、とにかく遊ぶ」
至って適当に答えた私。
昼休みだからそろそろ昼寝でもしようかなと吉田と同じように机に伏せようとした。
するとなぜか驚いたように口をパクパクさせる吉田。
……え、金魚よりも平凡だけど、その顔。
好きだから許す、けど。
金魚よりも平凡ってだいぶやばいよ、吉田。
「え、そんな金魚みたいな顔してどうしたの」
……もはや一応の好きな人に向ける言葉ではない。
私の的確なツッコミである。
「金魚ってなんだよ」
「いや、なんかパクパクしながら驚いてて平凡だなーって思って」
「意味わかんねー」
意味わかんなくていいんだけどさ、
なんで驚いてたの?
白石が祭り行くんだ、キモ。みたいな!?
もしかしてそういう…………
「俺の質問に答えてくれてからびっくりしただけ」
そう言うと、どこが恥ずかしいのか分からないけど、
吉田はそのまま顔を赤らめて顔を伏せた。
「いや吉田!私いつもちゃんと答えてるじゃん!」
「いや、いつも教えてくれない」
「……それはごめんだけど!でも今は私、吉田のこと……」
思わず熱弁しそうになって机を立った時。
「吉田くん!ちょっといいー??」
奴の声が……。奴が……吉田を呼んだ。