今年も後わずかとなり、僕の勤める銀行でも忘年会と言う物が毎年恒例で行われる。

 大手チェーン店の居酒屋の大広間で賑やかに行われていた。

 テーブルの上には、揚げ物やさしみのオードブルが並べられ、四十人程の社員がそれぞれ話に盛り上がっていた。


 それほど酒に強くない僕は、生ビールを中ジョッキの半分も飲めば顔が赤く火照ってくる。

「海原さん!」
 美也が物凄い勢いで僕に走り寄って来た。


「おい、どうした?」
 僕は美也のあまりの勢いにたじろいだ。


「大変! 今、トイレに行ったら雨宮さんが居た。沖田建築さんもここで忘年会だって! 隣の部屋みたい」

 美也は一気にまくし立てると、隣りに座る神谷のビールを飲み干した。


「先輩どうします」
 神谷が俺に聞いたが……


「ちょっとトイレに行ってくる」僕はすぐに席を立った。


「もう居ないですよ」

 美也の声がしたが、とにかくトイレに行こうと僕は思った。


 やはり、トイレの付近には彼女は居なかった…… 

 僕は隣の宴会場の入り口を横目に、自分の席へと戻った。


「どうでしたか?」
 神谷が僕に聞く。


「居なかった……」

「当たり前ですよ……」
 美也は呆れたように言った。


 しかし僕は、それから十分置きにトイレに行った。

 さすがの神谷も、僕に声を掛けなくなった……