「海原、ちょっといいか?」
 部長に呼ばれた。


「はい」
 僕は部長の後に続いた。


 休憩室に入ると、部長が突然口を開いた。

「海原、いくつになる?」

「僕ですか? 三十八ですけど……」
 僕は予想外の質問に、取りあえず答えた。


「お前も、そろそろ家庭を持った方がいいんじゃないか?」

「いえ、僕は未だ……」

「まだって事は無いだろう? 家内の知り合いの娘さんで、いい子がいるんだよ。君の肩書を話したら是非って言うんだ」

「いや、そんな……」
 僕はなんとか断ろうとした。


「そこをなんとか頼む…… 会うだけでいいから」

 部長もこの手の話は苦手らしく、いつもの貫禄と違い落ち着きが無い。


「しかし……」

 僕はどうやって断ろうか頭を悩ませた。


「堅苦しい物じゃないから。会って断ってくれていいから。今週の土曜日…… 頼んだぞ」

 部長はそう言い残して行ってしまった。


「会うだけですからね!」

 僕は部長の背中に向かって言った。