七月三日、その日は梅雨がまだ上がっておらず、長雨が続いてうんざりするような日だった。


 だが、僕にそんな事は関係ない。

 彼女を迎えに行ける僕の心は、天気とは裏原に晴れ晴れとしていた。


 時間より大分早いが、落ち着かない僕は車に乗り込みエンジンを掛けた。

 雨は益々激しく降り出した。


 僕は運転しながら彼女の事を考える。
  

 オーストラリアは今冬だ、寒さの苦手な彼女は暑い夏に向かうこの時期を選んで、日本に帰って来るのだろう? 

 彼女らしい…… そんな事を考えるとふと笑みがこぼれてしまう。


 僕の心はつい空港への道を急いでしまった。

 空港の案内表示が見え始めた時だった。


 目の前を、白い塊が横切った。多分、猫であったのだろう。

 僕は軽くハンドルを切ったつもりだった…… 


 しかし、雨の激しさに車はスリップし、僕の意志とは逆らい、車はガードレールを突き破った。

 激しい音ともに僕の体に大きな衝撃が走った。


 しまったと思ったが、体がどうにも動かない。


 もう少しで空港なのに…… 

 彼女が帰ってくる…… 


 僕の目に、転げ落ちた小さなエンジ色の箱が映った。


 彼女を空港へ迎えに行く事が出来たら、僕はもう一度プロポーズしようと決めていた。

 僕は、エンジ色の箱に手を伸ばした。

 彼女の颯爽と歩く姿が浮び、笑顔で振り向いた…… 


 サイレンの音が近づくと共に、僕の意識は遠くなって行った。