一時三十分を回った。


 彼女が颯爽と入ってきた。

 今日はロングブーツだ。髪型はいつもと違い、今日は一つにゆるく束ねている。

 
 彼女は総合窓口で何やら笑いながら話をしている。いつもなら、待合のソファーに座るのだが、融資の窓口の方へ向かって来た。


 今日は定期の一覧を渡す日でも無いのに…… 僕は焦った……


「昨日は通帳すみませんでした」
 彼女は僕に笑いかけてお礼を言った。


 僕は予定外の出来事パニックだ!

「いえ、こちらこそお忙しいのにすみません」
 と言うのがやっとだった。


「雨宮さん、気にしないで下さい。僕達デスクワークだから、たまには体動かした方がいいんですよ。昨日は走れてちょうど良かったですよね、海原さん」
 神野がわざとらしく会話に入って来た。


「あ―。分かります。私も午前中は机に座ったままだから、午後の外回りが楽しみなんです」
 彼女が話に乗ってきた。


「運動不足は健康に悪いですよね」
 僕は必至に話を続けようとした。


「エコノミー症候群になりそうですよ」
 神野が慌ててフォローしくれた。


「あっ。エコノミーって言えば私飛行機に今度乗るんですよ。そうだ、クレジットカード作らなきゃ、って思っているんですけど…… 何処の窓口に行けばいいのかな?」


「私がお作りします」

 僕は慌てて彼女を、椅子に座るよう促した。


 僕はカードの書類を別の窓口から揃え、彼女の前に出した。


「こちらに記入して頂いて、ここに印鑑をお願いします」

「出来上がるまでに何日位かかるんですか?」

「三週間程ですかね」

「えっ。急がなきゃ! 明日記入して持ってきますね」

「はい。お待ちしています」
 僕は思わず声が大きくなってしまった。


 彼女はいつもの笑顔を見せ、待合のソファーへと向かった。
 
 こんなに彼女と会話をしたのは初めてで、僕は彼女の姿を見ながら、明日が待ち遠しかった



「先輩、明日をただ浮かれて待っていちゃダメですよ」
 神野が僕に近づき耳打ちした。


「えっ」
 僕は心を見透かされているようで驚いた。


「今日の会話じゃ、ただカードのノルマを稼いだ銀行員に過ぎないですよ」

「そんな……」
 僕はがっくりと肩を落とした。


「雨宮さん、飛行機に乗るって言っていたじゃないですか。 何処に行くんですか? とか飛行機の話とか、話題を考えるんですよ!」

「あ―。なるほど……」

「感心している場合じゃないですよ。先輩がちゃんと話し掛けなきゃ!」
 神野は意地らしいそうに僕にアドバイスをした。


 明日、どんな話をしょう? 

 僕の頭は彼女との話の事で頭がいっぱいになってしまった。