彼女は総合窓口を担当している谷花美也(たにはなみや)と何やら親しげに笑っている。

 歳も同じ位で話も合うのか、楽しそうに話をしている。

又、その笑顔が可愛い。


 彼女は総合窓口の手続きが終わると、融資の僕の窓口へと歩いて来た。

 僕はチラチラと彼女の姿を確認しながら、カウントダウンをする。


 五・四・三・ニ・一


「沖田建築です。約束手形の一覧頂きたいのですが」


 彼女は笑顔で僕の前に現れた。

 必ずニコリと笑顔を見せてから話を始める。

 相手ときちんと向き合う姿勢を、僕は綺麗だと感じていた。


「どうぞお掛け下さい」

 僕は、いつもそう答えるのが精一杯だ。

 彼女が椅子に座った。


「約束手形の一覧です。総務課長の山下(やました)さんに、お渡しください」

 僕はもっと話がしたいが、いつも言葉が出ない。


「ありがとうございます」

 彼女はにこりと頭を下げ、席を立ってしまった。


「ありがとうございました」

 僕も慌てて、頭を下げた。


 彼女は、待合のソフャーに座り、雑誌を広げ総合窓口から呼ばれるのを待っていた。


 彼女が銀行に来るようになったのは二年程前だ。


当たり前のように言った「いらっしゃいませ」の挨拶に向けられた彼女の笑顔が、僕の心臓に突き刺さった。
 
 その時から僕は彼女が毎日来るのを心待ちにしている。


 しかし、一度もまともに話をした事が無い。