私、今日から先輩に猛アタックします!






「今日はカレー?」



脱衣所から戻って来た先輩が、私の用意した食材を見てそう言った。



「ふふ、正解です!
明日はカレーうどん!」



「あはは、定番だね」



でも1番楽なんだよなあ。

なんて思いながら準備を続けてると、先輩が横に並んだ。



「手伝ってあげる」



「えぇ!?」



「俺、料理できるよ?」



ほんとですか先輩!
それは新情報です……!ハイスペック!










って、そうじゃなくて!



「も、申し訳ないですよ……!」



「大丈夫、もう少し一緒にいたいだけだから」



ドキッ



先輩、それは……反則です。

そんなの、ドキドキが止まらなくなっちゃうじゃないですか。



「……じゃあ、私ももう少し一緒にいたいので、食べていって下さい!」



「え?いいの?」



「手伝ってもらうんですし!」



「それじゃあ、お言葉に甘えて」



先輩は一旦、家族に連絡を入れてから一緒にカレーを作り始めた。



どうでもいいような他愛もない話をしながら作る料理は、本当に楽しくて楽しくて、

いつもは寂しいこの時間帯も、全然寂しくなくて。



笑顔が止まらなくて。



先輩はきっと、そうやって私が寂しくないようにしてくれてるのかなって。

そう考えただけでだいすきが溢れた。










片付けまで手伝ってもらっちゃって、本当に長い間一緒にいた。



時刻は夜の9時ちょっと前。



先輩に何度も謝罪を入れながらも、台風の時は来てくれて本当に嬉しかったし助かった。



「また明日、学校でね」



「はい!」



玄関までお見送りして、手を振って帰ってく先輩の背中が見えなくなるまで見送った。



見えなくなる直前に先輩が振り返ったのにはビックリしたけど、

先輩は大きく手を振ってくれたので同じように振り返して、今度こそ見えなくなった。



それを確認して、私も家の中に入る。



今日はすごく素敵な1日だったなあ。










次の日の通学中に、先輩とばったり会った。
でも、錦戸先輩と一緒にいたから挨拶だけしようとおもったら……



「あ、菜奈ちゃん!ちょっと待って!」



と言われ、引き止められた。



「これ、母さんから菜奈ちゃんにって」



そう言って先輩は手に持ってた袋を私の方に差し出した。

なんだろう……?



「中見てもいいですか?」



「もちろん!」



中を見ると、40センチくらいの可愛い女の子のお人形だった。



「か、かわいい……!」



「菜奈ちゃんが寂しくないようにって、母さんの手作り」



「ええ!?」



手作りでこのハイクオリティ……!?

普通に売り物にできるくらいの可愛さなのに……それに、寂しくないようにって……。










「はは、嬉しそうだね」



「すーっごく嬉しいです!今度お礼言いに行きます!!」



「うん、おいで」



そんな私たちの会話を聞いていた錦戸先輩が、ちょーっと待ったー!と止めに入った。



「え、なに?一回お家行ったことある的な?」



「お互いあるよ」



「……付き合ってんの!?」



「ち、ちがいますからっ!」



そこから結局3人で学校に向かうことになって、錦戸先輩があーだこーだ言ってるのを笑って聞いていた。










教室について、珍しく由良ちゃんが私の席に急いできた。



「ねえ!王子、ついに告白断ったって!」



「え……!?」



ちょっと興奮気味の由良ちゃん。

それもそうだと思う。



先輩は来るものを拒まない性質で、告白されても仲良くなってからね。で流す。

私もそのうちの1人だし、
つい最近までウワサがあった女の先輩もそうだし……。



先輩は、振らないんだ。女の子を。



なのに、断ったってことは振ったってことで……。



「付き合ってはいないの?」



「う、うん……」



好きな子が出来たか、はたまた別の理由か。



「てっきり付き合い始めたのかと思ってさ。
……断ったってことは、心に決めた人が出来たってことよね」



やっぱり、そうなるよね……?










「菜奈の可能性だってあるんだし!変わらずに接するのよ!」



「えぇ!?う、うん……!」



このウワサは、朝にしてほぼ学校中の人たちに知れ渡ったみたい。

龍弥くんも朝来て、おはようの次に言った言葉がこのウワサのことだった。



「ある女の人が昨日の夜に電話で告白したらしい。んで、気持ちには応えられないって言ったらしいぜ」



より細かい情報を知ってる龍弥くんから話を聞いて驚いた。



昨日の夜……先輩と別れた後、だ。きっと。



「菜奈?どうしたの?」



「え?ううん……。
昨日、先輩と1日家でお話ししてたから、そのあとかなって」



そう言うと、由良ちゃんと龍弥くんは目を見開いて驚いた。










「王子の家に行ったの?家に招いたの?」



「えっと、昨日は招いた……っていうか、台風だったから、先輩に電話したら来てくれて……」



「昨日“は”?」



……由良ちゃん、鋭い。

この白状しなさいっていう視線が怖い。



「……その前に一度先輩の家にお邪魔したことあります……。土砂降りで……!」



「それで?どうなったの?」



うぅ……。由良ちゃん、ニヤニヤしてる……。



「先輩のお母さん帰って来て、ご飯頂いて……。あ、今日ね!先輩のお母さんからぬいぐるみ貰ったの!」



袋から取り出して由良ちゃんに自慢気に見せびらかす。



でも由良ちゃんはそれよりも別のことを考えているらしく……

ぬいぐるみに触れてくれたのは龍弥くんだった。










「なおさら、菜奈の可能性高いじゃない」



「え?」



龍弥くんと2人でぬいぐるみをいじいじしてたら、突然由良ちゃんがそう言った。

私も龍弥くんも、由良ちゃんの方を見る。



「つーかさ、菜奈以外にあんの?」



「それは何か確証があるってことよね?」



「まあな」



龍弥くんは私からぬいぐるみを取り上げて、ドヤ顔をしながら言った。



「菜奈がこの前心配してた先輩の隣にいた女の人!振られてんだよ!」



……それがどうしたのか分からないけど、
とりあえずぬいぐるみ返して!



「……なるほど、そういうことか」



「え、由良ちゃん分かったの!?」



「ねえ、菜奈。その女の先輩が王子に告白した時、王子は流したんでしょう?」



確かにそう言ってた。

私と龍弥くんは目を見合わせて頷いた。



「前に流された人が振られてるのよ。
菜奈は?前に流されたのよね?振られた?」



「……何も、言われてない」



ぬいぐるみの話しか今日はしなかった……。

じゃあ、龍弥くんのいう確証って……。