それからは彼女に仕事以外の話もたまにふるようにしたけれど、あの日みたいに笑ってくれることはなかった。

ご飯に誘おうとしてもいつも気づけば退社しているし、誘っても断られていた。
やっぱり俺も一線を引かれているのか。
まだ他の社員よりも近い存在だと思っていたけれど、違ったのか。

それからどんどん彼女のことが気になり始め、気づけば目で追っている自分がいた。

そして彼女が入社して2年目と少したったころ、俺は会社に忘れ物をとりに部署に戻ったときのことだった。

すでに夜の9時。
もう誰もいないだろうと考えながら部署ある階に着くと、扉から光が漏れていた。

あれ、誰か残ってる?

ゆっくりと扉の前に近づくと、松岡さんが机に向かって何かをしていた。

「松岡さん?」

さすがに誰も来ないだろうと考えていたのか、彼女は俺の声に驚いて肩をビクッとさせる。

「あ、東さん…」

彼女は椅子から急いで立ち上がる。

「まだ残ってたの?」

でも今日定時に帰ってたような…。

「あ…実は、一人で仕事したくて…皆さんが帰ったあとにまた出勤してまして」

「えっ…そうだったんだ。もしかしていつも?」

「いつもって言うほどじゃないですけど、たまに」

部署のみんなが松岡さんは仕事が早い、いつも定時までに仕上げて帰ってるって褒めていたけれど、そういうことだったのか。