「東さん」

声をかけてきたのは松岡さんだった。

「この書類の書きかたがわからないのですが」

「ああ、これはね…」

松岡さんは真面目できっちりしており、仕事は丁寧だ。
わからないことはすぐ聞きにきて、教えをこう。

「ありがとうございます」

お礼をいって軽くお辞儀をして、彼女は自分の席に戻る。

彼女はあまり他人と馴れ合わない。
誰かと楽しそうに談笑しているところはほとんど見たことがない。
その割には俺には話しかけに来てくれている。
仕事のことのみだけれど。

愛想笑いはたまにしているけれど、自然に笑っている姿はあの日以来見ていない。

笑ったら可愛いのに。
もう一度笑っている顔が、見てみたい。
俺はそういうことを考えるようになっていた。