「ただいま」

俺は自宅の玄関を開けると、スパイスの香りが鼻をかすめる。
今日はカレーか。

「おかえりなさい、あなた」

リビングと廊下を繋ぐ扉が開き、妻が笑顔で出迎えてくれる。
そして妻は俺からすぐに上着と鞄を受けとる。

「和香(わか)は?もう寝た?」

「さっき寝たところよ」

妻とは結婚して3年。
一昨年には娘の和香が産まれ、もうすぐ2歳を迎える。

妻とは大学時代から付き合いはじめ、妻の26歳の誕生日に結婚した。
妻とは決して仲が悪いわけではない。
毎日普通に会話をする。

しかし和香が産まれてから、夜の営みはだんだん減り、今は全くない。
妻を女性として見れなくなっているのは薄々感じていた。

「いまご飯用意するわね」

妻はキッチンの方へ向かい、ご飯を準備し始める。

妻は一般的に言うと美人なほうだ。
大学時代はモテるほうで、たまに告白されているのを見かけた。
会社に入ったときもたまに告白された話は聞いていた。
結婚してからは会社をやめ、子育てに専念するため専業主婦になっている。

「お酒は?今日は飲む?」

妻はカレーの入った器を食卓へ置くと、俺のほうへむいて問いかける。

「ああ。飲もうかな」

妻としては申し分はない。
気は利くし、料理は上手だし、明るくて今でも綺麗だ。
しかしそんな完璧すぎる彼女に、どこか物足りなさを感じている俺がいた。