「玲奈、昴に消毒終わったら行くから教室で待っててって伝えといてくれない?」

「ああ、八木くん心配性だもんね。美々が怪我したって聞いたら飛んでくるんじゃない?美々の彼氏」

二人の会話を聞いていると妹の柏木美々さんのほうらしい。
確かに姉とは少し雰囲気が違うか。

「彼氏じゃない幼馴染み!」

「ごめんごめん。伝えてくるね!」
谷さんは保健室をあとにしてバタバタと廊下を走っていく。
騒がしい子だ。

「もう玲奈ったら」

からかわれた彼女は頬を膨らませている。
彼女は八木昴くんのことが好きなのだろう。
まわりにもバレバレで、本人には気づかれていないパターンか。
そんなことあるんだな。

「ふふっ…」

僕は堪えきれずについ吹き出してしまう。

「えっ?どうしたんですか先生」

いきなり笑い出した僕に彼女は驚いている。
それもそうだ。

「顔赤いですよ」

僕がそう指摘すると、彼女ははっとしたように両手で顔を覆う。

「…秘密ですよ?」

「はい」

消毒が終わると彼女はお礼を言ってすぐに保健室をあとにした。
僕は再び椅子に座り、珈琲を手に取って口に含む。

彼女のような純粋な子もいるんだな。
それから僕は彼女の表情が頭に残って離れなかった。