「…」

「…」

エレベーターが動く音だけが響く。
7階に上がるだけなのに、何故だか時間が長く感じる。

三枝さんの背中、広いな。
でも圭介さんのほうが広くてあたたかみがあって、後ろから抱きつきたくなるの。
ああ圭介さん、早く会いたいな。

私はエレベーターの壁にもたれながら、ぼーっとそんなことを考えていたとき、ふいうちだった。

「松岡さんって」

エレベーターのボタンの前に立つ彼は前を向いたまま思わぬ言葉を口にした。

「不倫、してますよね」

え?

私のほうへ振り向いて彼は笑顔を浮かべる。
何かを企んでいるかのような、裏がありそうなつくり笑顔。
背筋がぞくっとした。

「松岡さんがよく部屋に連れ込んでる男性、街で偶然見かけたことがあるんですけど、奥さんと子供いますよね」

何で三枝さんがその事を知ってるの!?
私が圭介さんを部屋に招いていたところ、見られていたのだろうか。

「不倫なんてやめといたほうがいいですよ。愛人なんか飽きたらいずれ捨てられるんです。彼が奥さんと別れてまで松岡さんと一緒になるなんて、100%ありえない」

ーーードクン…

三枝さんの言葉に胸が疼いた。

そんなこと、ない。
圭介さんは…私のこと”愛してる”って言ってくれたもの。
私のほうが奥さんなんかより圭介さんを愛してるもの。