「・・俺がどんなに突き放してもしぶとくてさ・・なんだろな・・いつの間にかあいつのそんな行動が俺の中で当たり前になっていって・・」


私は真剣にお兄ちゃんの話に耳を傾けた。

雨の音に話し声が途切れてもずっと耳をすましていた。


「なんか・・人としての感情が甦ったって言うか・・今の俺が本当の自分になれるのはあいつといる時だけだ・・」

「お兄・・」

そう、お兄ちゃんにも恋愛に対してつらい思い出がある。

好きだった人の死・・。

それからのお兄ちゃんは毎日の生活が荒れて、自暴自棄になって・・正直見てられなかった。

時が経っていって、だんだんと落ち着いてはきたものの、まだ全然破滅的だった。


だけど、あすかと出会ってお兄ちゃんの表情がコロコロ変わっていくのが私の目にも明らかだった。


私と同じで恋愛をするのに臆病になっていたはずのお兄ちゃん・・。

もう決して女の人を好きになることがないと思っていた。

あすかのこと好きだとは口には出さないけれど、大切に想っているんだな・・。



そんなお兄ちゃんもまた・・うらやましく思う。


お兄ちゃんはつらい思い出を乗り越えて今、あすかを想う・・。

そのことに否定をしない。

・・・なのに・・私は・・?

いつまでこんな臆病なままなの・・?

裕紀に触れられることすら我慢できないのに・・。

それほどに諒を求めているのに・・。