愛情
アイジョウ
そんなもの私には存在しない
存在するとすれば
哀掟
アイジョウ
私には愛情が分からない
だからこの名の掟に縛られる
ーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
……………………えー
…………………………………………と
只今、誘拐されて軟禁?されてます
ーーーーーーーーーはい……
誘拐されて
こんなに落ち着いてる私も
どうかと思うけど
それが性分だしね
ガチャ
ガララララ
ハァァ…‥
戻ってきたか……
私は扉が開いた方を見る
暗い部屋、いや
ここは倉庫だな
外は明るく暗い倉庫の中からは
逆光で、私を誘拐したであろう犯人の
顔が見えない
それをいい事にそいつは、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
、、、、、は? 眺めてるだけですか⁉︎
はぁぁあ〜もう意味わかんない
何か喋ろよ
多分ね、私が逆光でわからないだけで
すんごい目が合ってると思う
ねえ?気まずくないですか???
だからさ何か喋ろうよ
それかさ、私の口を
自由にしてくれません?
ガムテープで塞がれちゃ
まともに喋れないでしょ
聞いてますか〜〜〜?
あぁそうだった
私、話せない状態でした
もうさ、何な訳⁈本当に!
手足は縛られるわ
こんな間抜けな格好見て
楽しいわけ?
羞恥心プレイですか⁈
ほんとヤダ!!!
さっきから独りよがりだし
話し相手にはなってくれないし
誘拐犯が話し相手も不味いけど…!
「……お前、誘拐されたのか?」
おお!喋った!!!
そうとも!誘拐されたっ!……………………
……………………
………………………んん?
《……お前、誘拐されたのか?》
貴様が誘拐したんじゃないの⁈⁈
何故、疑問形なんだよ!
わかる?誘拐されたの!
見てわかるでしょ⁉︎
後ろからガツン!と
頭かち割れるぐらい強く叩かれて
ガツンと?
さっきから何か
ズキズキするなとは
思ってたけど
ええ〜、、、、
嘘でしょ………
血が出てるじゃん
血が床を這ってるじゃないですか
え、私ここで死ぬの?
うわ〜最悪
さっきから1人でボケてはツッコンで
こんな間抜けな格好を見られるわ
さらには、頭から血流して
なんだこの災難は……。
もうさあー
そこの人!
さっきから扉の前で突っ立ってる
誘拐犯であろうそこの人!
取り敢えずさ、手足を縛ってる縄外して
私の最期を看取って下さいな…
そんな生易しいもんじゃないか………
「おい…大丈夫か?」
だからさ、見てわかりません?
頭から血を流してるでしょ
意識朦朧なのこっちは
心配するぐらいならさ
ガムテープを取るとかさ
縄を外すとかさしてよ………
あ、やばい眠くなってきた
目を閉じかける間際、
誘拐犯が覗き込んできた
私はこの時初めて
天使を見た………
違う……………………
……………………あれは
……………………………
………死神かもしれない
だってあまりにも美しかったから
美しいから死神とは
言わないかもしれない
私の偏見でしかないかもしれない
だけど、最期があれでも良かったかも
なんて呑気な事を考えてた
あたし
バカなの……?
ピ ピ ピ ピ
一定の機械音
あたしの右手には懐かしい温もり
それが心地よくて
いつまでも眠っていたかった
ここが天国じゃない事ぐらい
わかってる
当然、病院なわけで
だから、もう少しの間
目を瞑って
ここに至るまでの事を思い出していた
あたし、てっきり死ぬのかと思ってた
あれは死神じゃなかったんだ
それとも、死神は私が死ぬのを
見逃してくれたのだろうか
なんてね
「沙良、もういいだろ?
そろそろ目を開けたらどうだ?」
あら、気づいてたの?
…………………………………………
……………………
『お兄ちゃん』
「はっ、お前がお兄ちゃん
とはね、、、普段から言わねえくせに…
………どうした?頭殴られて
狂っちまったか?」
ほんと変わらないわね
3年ぶりの再会で妹がこんな状態
だっていうのに
この憎まれ口
『元から狂ってる人には
言われたくないわよ朔弥』
お互いこうやって
憎まれ口叩いているのに
繋がれた手を離そうとしないのは
お互いが唯一の存在だから
幼い時に
両親を亡くし
親戚の家をたらい回しにされ
疫病神 呼ばわりされた
終いには施設に入れられ
常に私たちは孤独だった
この状態で、いったい誰を信じ
誰に助けを求めればよかったの?
そんな時でもいつだって
そばにいたのが
朔弥だった
朔弥にとっても私だけだった
ねえ、朔弥
覚えてる?
あの時した約束を
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーー“死ぬときは2人一緒……”ーー
『…朔弥
ごめん…ごめんね………
…あの時の約束わ忘れてた…』
1人にしない
かけがえのない存在の筈なのに
たった3年されど3年
会えないだけで、こんなにも
弱く惨めになってしまうなんて…
「…そうだな、俺をおいて
先に逝くなんざ許さない……
俺は、、、一度たりとも約束を
忘れたことはない………ただ…
3年もの間、お前を1人にした俺を
お前は許すな!」
馬鹿
バカ
ばか
ほんとばか
『ばか朔弥』
寂しかった
淋しかった
何で1人になんかするのよ………
おかげで3年間我慢した涙が
止まらないじゃないの…
こんな弱い私を見せたくないのに
何で、優しく抱きしめたりするのよ
いつもみたいに悪口でも何でも
言えばいいじゃない
どうして、あんたまで泣くのよ…
なんでよ………
どうしてよ…………………っ
『…逢いたかったっ』
やっぱり今日も負けた
今日ぐらい朔弥に言わせたかった
“逢いたかった”って……………………
もう何回と嗅ぎなれた薬品の匂い
まさか、沙良が誘拐されるとはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー俺のせいだな……………………
「………沙良、ごめんな…
お前が誘拐されたのは
俺のせ『ねえ、プリン食べたい。…
買ってきて』………」
……………………
…そうだったな
お前はこういう奴だったな…
全て分かった上で俺を咎めようとしない
今だってプリン買ってきて、か…
「そんなにプリン好きだったか?
ちょっと待ってろ下の売店に
行ってくる」
椅子にかけてた腰を上げ
沙良の頭を撫でた
沙良も答えるように瞳を閉じた
3年ぶりに会った沙良は
どことなく痩せた気がする
もともと身体も強い方ではなかったな
苦労かけたな………
『朔弥、…早く帰ってこないと
許さないから』
そう言った沙良の意地悪げな笑顔を
綺麗だと思った
両親が死んでからずっと二人だった
誰にも頼れず信頼よりも
もっと繋がりの深い俺たち
たった一度…
たった一度だけど
過ちを犯した
許されない過ちを…
あれは、俺が弱いばかりに
沙良に甘えてしまった…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーー
“朔弥いいよ…誰も朔弥を責めない
………私が責めさせない!
…これは…私の決意だと思ってね
だから、貴方は何も気にしないで
お願い来て…っ”
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ーーーーハッ
頭によぎった一瞬の記憶を振り払う
かのように頭を振った
沙良、お前は気にするなと言ったが
俺には無理だよ
自分の命よりも大切なお前を
俺は……………
………だから償い続けるよ
それでなくても俺は
お前を失いたくない
沙良が誘拐されて重体だと聞いた時
俺は生きた心地がしなかった
お前が無事でよかった
お前を誘拐した奴はちゃんと
処分したからな
っていっても俺が駆けつけた時には
誘拐犯はすでに伸びていた
それを処分したのだが……
沙良だって応急処置が完璧
だったおかげで
命も助かった
どのみち命の恩人には
挨拶に行かなくちゃな………
私の我儘でプリンを買いに行く朔弥
誘拐の件に関して
今回が初めてじゃない
過去に何回もあった
私たちの祖父母が資産家で
それはもうお金に困ることなく
更には
父と母は医師と麻薬取締官
父は天才医師と名高く
母は女性ながら優秀な麻薬取締官
として一目おかれていた
のだから
年収も普通のサラリーマンに
比べると雲泥の差
そんな家族に囲まれれば
誘拐も普通にあり得る
お金には困ることはなかったよ
でもね、いろいろと苦労してるのよ?
祖父母が亡くなり遺産が父母に渡り
父母も亡くなるとなればと
遺産は自動的に私や朔弥に渡る
まあ、
働かなくても一生遊んで暮らせる
額でしょうね
それでも余るぐらい…
はぁ、今回の誘拐も
朔弥が3年ぶりに帰ってくるのを
予測しての誘拐だったみたいだし
いくら身代金を要求したのかしらね?
朔弥は
身分秘匿捜査で
香港で
3年の潜入捜査が終わり
日本に帰国した瞬間
私が誘拐なんて
まったく
休む暇がないわね……