私の高校生活はこの人に出逢ったことですべてが決まったんだと思う。

私の3年間の想い出にこの人がいないことのほうが難しい。
それくらいこの人との想い出で埋め尽くされている。

この教室も、何度となくこうやってふたりで時間を過ごした。


「もうお前に授業の準備とかジャマされなくてすむと思ったら、」
「せいせいするわ、でしょ」
「おお、よくわかってんじゃん」
「どうせセンセーにはそう思われてるのわかってたけどね」
「ほぉほぉ。……でもまぁさみしくはなるな」

メガネの奥の瞳が本当に少しだけさみしそうにしてくれるから、泣きたくなる。
私はそれを悟られないようにわざとプイッと横を向く。

「ハイハイ、どうせ最後だからね、そうやって私を気持ちよくさせて卒業してもらおうってことでしょ」

視界のはしっこに映り込んでるセンセーがフッて笑った。


センセーは大学を卒業してすぐに教師になってて、初めての赴任先がウチの高校だった。

教師になりたてのセンセーは、私たち生徒の中に混じるとホントに先生なのかと思うくらい子供っぽい。
だけど、時々見せる表情や考え方はやっぱり私たちからしたらとんでもなく大人で。

特に今見えたフッてやさしく笑う、その表情が大好きだったけれど、その表情に年の差や立場の違いを感じて、私の胸はいつもたまらなく切なくもなった。


でも、今日やっと卒業できる。
少しは先生と生徒っていう枠組みからも卒業できるのかな。