依世ちゃんが美容院の扉を開ける。
カランコロン、と扉に付いていた鈴が軽やかに響いた。
「ただいまー」
依世ちゃんの声に、店内にいた人たちがみんな一斉にこちらを向く。
タイミングが良かったのか、お客さんは二人しかいなかった。
混んでなくてよかった。
依世ちゃんはさっきああ言ってくれたけど、やっぱり優先してもらったら、先に来ていたお客さんに悪い。
だから、ほっとした。
心の中で安堵の息を吐く。
不意に、店内にいる人の視線が、突き刺さった。
「ねぇ、あの子って……」
「あの噂の?」
……あぁ、そうだった。
依世ちゃんの家だからといって、わたしの噂が流れていないはずがない。