「起立、礼」
学級委員長の声に合わせ、立ち上がり、頭を下げる。
これで、今日の授業は終わりだ。
今週は掃除当番じゃないし、さっさと荷物をまとめて帰ろう。
鞄に荷物を詰め込み、教室を出て昇降口へと向かう。
下駄箱のところで靴を履き替えていると、
「真帆ー!帰ろう!」
後ろから声がした。
舞花だ。
「うん、帰ろう」
私は頷くと、舞花と一緒に昇降口を出た。
少し歩くと、いつもの橋とその傍に木があって、木には桜が咲いている。
私たちは、橋の所で止まると、あの二人を待つことにした。
「桜、綺麗だね」
舞花がそう言ったのを聞いて、つい木を見上げてしまう。
その一言に、どう言葉を返して良いか分からなくて、辺りを見回した。
そして、
「川に桜の花びらが流れてる…」
と小さく呟いた。
私が川に夢中になっていると、舞花も川の方を見た。
二人で何も言わずに橋の上から川を眺めていると、横から突然声をかけられた。
「よっ」
「わっ!?」
びっくりして、私は声をあげた。
けれど舞花はごく普通に“その人„に話しかける。
「大沼、遅かったじゃん」
「ごめん、先生の話が長くてさー」
「あれ?木下は?」
「あーまだHR終わってないみたいだぞ」
「そっか、……まあ今年は見事に全員違うクラスだったもんね」
「そうだなぁ…でも去年は___」
舞花と大沼くんの話はいつもはずんでいて、私はその輪になかなか入れない。
私が話すことが苦手っていうからなのかもなんだけど、実際には二人が良い雰囲気だから…なんだと思う。
これについてはあんまり納得したくないなぁ…
でも事実に変わりはない。
「なぁ、真帆ー」
私が考え事をしている間に話は進んでいて、大沼くんに話をふられた。
「はいっ、」
間の抜けた声で返事をすると、大沼くんは笑った。
「って、なんで敬語なんだよ。……まぁいいけど、文化祭で木下が財布忘れたのっていつだっけ?」
大沼くんに話しかけられて、ドキドキしながらも、言葉を返す。
「中学の…二年生の時!」
恥ずかしくて顔があげられないまま、少し小さな声で喋った。
「あぁ、そっか!あの日はけっこー暑かったよな___」
また、“二人だけ„の会話が始まった。
………いいな。
「あ、真帆…とみんな。」
「わっ!?き、木下くん?!」
今度は後ろから静かに声をかけられた。
大沼くんよりも静かだったからか、さつきよりも驚く。
「あ、木下!」
「おーやっときた!」
「遅れてごめん」
三人の会話を軽く無視して、暖かい春の風を感じていた。
花の甘い香りも混じって、私の鼻をくすぐる。
ふと空を見上げると、そこは青く澄みわたっていた。
「よし、じゃあいくか」
季節を感じていた私は、大沼くんのこえがぼんやりとゆっくり聞こえて、みんなに置いていかれそうになった。