「ケホッ」

体温計を見れば37.9℃と記されていた。

これじゃあ時雨とのデート行けないな。時雨、楽しみにしていただろうに。
霧宮椿は高熱をだし、彼氏である神柳時雨とデートに行くことができないのを憂いていた。
連絡アプリで風邪をひいたこと連絡し、お姉さんとでも行ってきてと打った。
デートするはずだった美術館の展示会は今日までだ。今日を逃してしまったらなかなかお目にかかれないようなものばかり、時雨がせっかくチケットをとってくれたというのに情けない。

ベッドの上でうつらうつらしているとインターフォンが鳴った。
私はふらふらしながら玄関に向かう。
ガチャリとドアを開ける。

「椿、大丈夫そうじゃなさそうだね。ふらふらじゃないか」

「し、時雨」

突然の訪問に驚いた。そして急に顔が熱くなる。ボサボサの髪に冷えピタ、そして寝巻き姿。こんな姿を恋人に見られるなんて恥ずかしい。

「椿、中に入ろう。ほら」

私の考えてることそっちのけで、時雨は部屋に入って来た。

「お茶だすね、まってて」

「ださなくていいよ。とにかく寝てて。」

そう言い私の部屋に連れてきてベッドに寝かせる。ドラックストアで買ってきてくれたのか、冷えピタをだし貼り替えてくれた。

「ずいぶん熱っぽいね。医者には行った?」

私はコクリと頷いた。

「時雨」

「どうしたの」

「美術館はどうしたの?お姉さんとでも行ってくればよかったじゃない」

素直じゃない口の聞き方だと我ながら思った。そうすると時雨は私の前髪をかきあげながらこう言った。

「椿とじゃないと俺は満足出来ないからね。それに姉さんと行っても姉さんに振り回されるだけだし。」

ニッコリと微笑む時雨の姿と撫でなれる髪。その心地よさに私は眠りに落ちてしまった。

「まったく、椿は可愛いな。」

時雨は眠りに落ちた椿の姿を見て呟いた。ほんとうは襲っちゃいたいけどこらえなきゃねと自分自身に言い聞かし、椿を眺める。

「台所借りるね」

そう言い立ち上がり時雨は台所に向かった。そしてスープをつくり蓋をした。


どれくらい時間が経っただろう。椿が目を覚ますと時雨が近くにいた。

「時雨、まだ帰ってなかったのか」

「起きたんだ、じゃあもう帰るよ。椿が起きないと家の鍵閉められないし」

「あっごめんなさい」

そう言われてなんだか悪いことをしてる気分になる。

「そんな顔しないで、心配なだけだから。戸締りちゃんとするんだよ」

そう言い時雨はゆっくり立ち上がった。

私は反射的に時雨の服を掴んでいた。

「寂しいの?椿」

そうすかさず言われ、私はすぐに手を離した。

「いや、その」

「元気になったら、もっと触れられるんだけどね。だからそれまでお預けだよ」

そう微笑まれ何も言えなくなってしまう。

そのまま玄関に向かい、時雨は帰って行った。

時雨が帰ったあとお腹が空いたため台所に向かうと時雨が作ってくれた野菜スープがあった。

私はそれを食べ、時雨の温もりを感じた。